空を見ていると飽きないと言うひと

1998年10月号の詩作品


私のなかへも空を続けて

★雲のかたち、キレイ、それだけで、いいのにな、きょうも新しい鞄を買ってしまったよ、



詩誌「混線ぺんてか Vol.6」より
小池昌代の詩に深呼吸


空を続けて

小池昌代




日ののぼるすこしてまえ
まだ、ぬれている朝の空には
つばさをおろす音が聞こえた
     
私のなかへも空を続けて
鳥を見ることはいつでも好きだった
たった一羽でゆく鳥を
      
缶ジュースを飲みながら
見上げた空が
きょうはがらっと落ちてきてもいい
きっとゆるすよ
    
窓の視界から外れていった
鳥の行方を
どんな駅員も尋ねないから
歳月のようにやさしい通過
   
もっととおくへ
もっともっととおくへ
   
鳥を見送るとき
   
それは、なんて
すがすがしい取り残され方
     
配役がすこし違うような違和感をかかえて
私とRはくらす
感情の高さに電話機を置いて
   
おはよう
きょうはまだ少年
だから、やわらかいその腕をゆすって
青空をRの額へこぼす
目的はいらない
鳥になって
午前五時。
海へ、誘う





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ぼくはお金をため船旅に出た

★他者に自分を探す癖。自分の中がうつろになったら他人の中を探すとおもしろい。webもそう、詩もそう、会った人もそう、そこに自分がいないか探してる。



で、今月のピカイチは
”詩の毒攻撃仕掛け人”
山中隆史のコレに決め。私にはおもしろいなん


時間差天使

山中隆史




コーラス隊の少年がステージに出てきて
一列に並び じっと
黙っている
    
鞭で打たれるのを待っているように
じっと 黙っている
     
ぼくは客席の通路にモップをかける
鼻唄なんか 歌って
掃除もあらかた終わる
  
(時給800円な〜り)
    
バケツを持って
ホールを出ようと
重いビロードの扉を開く
       
振り向くと
    
コーラス隊の少年がステージで
一列に並び じっと
黙っている
   
夕暮れ時の帰り道
自転車で
森を横切ると
   
急に歌声が聞こえる
    
ぼくは お金をため
船旅に出た
   
ホロ酔い加減で
デッキに出ると
   
コーラス隊の少年が欄干の上に
一列に並び じっと
黙っている





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てるん、てるん、てるん

★てるん、するしかない、そんな日は、



詩誌「混線ぺんてか Vol.8」より
浜江順子の詩をどうぞ



醜女、てるん

浜江順子




         フェイク
自分自身の贋作にもなれなくて、
冷し中華する。
    
醜女は、
てるんするしか、なく、
てるん、てるん、てるん。
        
  雨のしずくを飲む気力もない日は、
  川の中の、ニナ貝と
  戯れようか。
      
てるん、てるんになった陽の光に
ウソをみて、
てるんと言っても、
誰も信じてくれない。
    
雨足は早まり、
醜女の心臓は弱まり、
天使さえ、もう飛んできやがった。
死という奴にさえ、
愛されれば、本望か…。
    
醜女は、
てるんするしかなく、
てるん、てるん、てるん、てるん。
    
  足のつま先から
  なにかが腐り、
  なにかのかさぶたが、
  ポロリとおちて、
  雨の匂いに
  静寂と血を添える
  そんな日に。
    
醜女は、
てるんするしかなく、
てるん、てるん、てるん、てるん。
    
てるん。
てるん。
てるん。





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4神は真善美とともに…

★人でなし


詩誌「letter red 1」より
乙手虎志はどうなるのだろう


この意識の場で

乙手虎志




神は真善美とともに、はんたいのものもつくったのだろう。
     
いいひとは、わるいひとをつれてくる。
わるいひとは、いいひとをつれてくる。
いいひと、わるいひとは、ひとつの尺度だ。
      
                                もの
なにかかんがえると、かならずはんたいの度数がよういされている。
                       もの
(おまけに、かんがえていない尺度を排斥してしまう)
     
心をもつことじたいが、あわれだ。
たのしむのも、くるしむのも、いつくしむのも、にくしむのも、
ゆるすのも、さばくのも、(かんがえるのも、かんがえないのも)心だ
      
しかし、心は、意識を射程においた。





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5自分語で喋ればさびしくない

★おかえりチッチャーノなんだかポカポカした変な日だねいじめられなかったかいうまいものどっかでもらったかい(無視)チッチャーノ(耳ピク)チッチャーノは久地でいちばんいいこの猫だよ(ニャ)世界でいちばんかわいい猫だよ(ニャ)ちょっと脳たりんだけど(無視)缶詰食べるー(ナアア)(小走り)、通じてることもあるようだ


というわけで、
詩誌「あなたの使う愛してるの言葉は no.1」より
樋口えみこの詩をリキリキ、白戸郁夫氏に捧ぐ


パペパバルリールールルキュリヒー

樋口えみこ



眠れない、と
いもうとから
いつもの手紙がくる
昼寝ていれば夜眠れないのはあたりまえ
なのだけれどそれは言っても仕方のない言葉
言葉を尽くしたつもりで返事を書いても
返ってくる言葉はいつも
眠れない。
だから眠れない。
どうして眠れない。
わたしだけが
眠れない。
     
わたしからいもうとへ
いもうとからわたしへ
膨大な数の言葉が渡っていくが
遠く揺れる白波のように
届くことはなく
届くことはない
    
言葉とは、こういうものだったか。
   
あなたの使う愛してるの言葉は
愛しているという意味なのか
わたしが使う希望とは
希望するという意味なのか
意味のない言葉
パペパバルリールールルキュリヒー
   
ホッとするよ
    
通じ合わないこともわからない
パペパバルリールールルキュリヒー
リキリキ
ルッルッルッルッカッターリハーライ
テットクントスェツァカカカカカカカキュスロペロリアン
    
リキリキ
自分語でしゃべればさびしくない
いもうとはリキリキ
あなたはルクルク
それでもゾサゴヨ
いくらかはリキリキ怒って返事をくれるだろうか
ふざけないでよリキリキパーチェエリアルゲミョ





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