草木にをわれ

野分 紅




わたしの上を通りすぎる
いくつもの目が
いつも同じ輝きで問いただす

たとえば花が好きだから花係りである必然を
冷蔵庫に鶏肉があるから夕食はフライドチキンである必要を
年頃になったから制服を来て進む道を
避妊し
否認し肯定することをつづけてゆく唇を
産むことを
黒い靴を履いて本屋に行くことを
いきていることを
決めなければならないわたしであるわたしを

はだかのままで問うその目の
等しく甘いいぢめに
等価の悶絶でもって
沈黙してきたが

「どおする？」
「どおしたらいい？」

そのほほえみがいつしか
わたし自身の瞳にかわり
答えないわたしの上に
しっかりとした体重を被せる
水はどうして青く見えるの
少し折れ曲がりながら
沈んでゆく

自由など
どこにもなかったね

答えることや
答えないことの
間で
どおすれば
きもちがいいの
どこにふれれば
あなたはいくの

答えずに泣いては
また忘れて駆け回ったれんげの道で
ふいにわたしの足を取った
さまざまな草木の絡まりが
今年も伸びている
どこかの道で
名なく
今
水性になった草木に絡められ
乾いた風の音も
手のひらを切る細い枝の割れる音も
濡れている
淫らに笑うて
ぷくぷく
ちいさな泡は綺麗
あ
あ
驚くような
わたしの小さな叫び
零れるたび
苦しい水の中で
息をすることを
平気だったわたしを
わたしは
もう
忘れた

あきらめて
何度も何度も尽きるのだ
尽きて尽きて尽きて
つきやぶることができたら
もういちど陽を浴びて
なんにもないわたし
うっすらと汗ばんだ皮膚が
液を浴びた処から
発芽して
草木の匂いをたてるよ

1999.11 投稿作品　　　　　
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