東高根森林公園はきみとも行った
１９９８年12月号の詩作品
Ｑ１覚えておきたいことがいくつありますか。
目覚め
清水健太郎
屋根の向こう 空の向こう 距離感のない 飛行音が ぬけていく。
洗濯機が 昨日をかきまわす。
曇りガラスにうつる 今朝の白い幻燈。
古いスナップのような 子供の歓声。
君はいつ生まれた？
うずらのたまごを あたためている君。
秘密におびえ まぶたが かすかにふるえた。
君は何ｇだった？
あたたまっているタオルケット。 つつまれて一つになった体温。
あさがお。
ひらく一瞬。
君の瞳にうつるのは 何？
明日は 鉄塔の上で 眠ろう。
朝の打ちよせる夜の浜辺。
詩誌『混線ぺんてか vol.10』より
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Ｑ２犬に名前をつけるとしたら何にしますか。
ビア・ホール
田代田
結婚式の朝は何をしようか ＴＶをつけたあと ブーケを玄関にもってきてもっていく結婚指輪をひろげてみて それから 歯を磨こう 僕はゆっくりと髭をそる さっぱりと 洗濯物もすませ 布団も干して いつもよりすこし長めの僕は風呂に入る あたらしい旅立ちの朝に何をしたか 百年たってから そのすべてを 思い出すことができるように いつもとあまり違わないことをしておこう 人生について 語り合うことなんかもしない 玄関先に置く 借りてきたウェディング・ドレスと シューズと 箱に詰めてある何かわからないものは この日だけは はっきりと君のものだ 望みなら隣の家の子犬もコロしてあげる きっと いつもより早く目覚めるから いつものように 基礎体温を測ってから いつものように体を重ねてみよういつものように 長いキスをしたあと 電話なんか出なくていい結婚式の朝だ どんな用事も ほかにはない 地球の運行さえ止めることができるまたとない朝だ そして ああ、やっとここまでこれた と おおきく声をだそうベッドのうえで君の勇気をたたえながら これは少しの冗談じゃないと 久し振りの結婚式だ僕は 君は はじめての結婚式の朝をゆっくりかみしめなさい ゆっくり それから すこし早めのタクシーを呼ぼう 式場のビア・ホールまでの
詩誌『混線ぺんてか vol.9』より
＊田代田プロフィールへＧＯ
★田代家の犬の名前は「モモジロー」
Ｑ３学園にいる限りオトナになれないってどういう意味ですか。
ここの歌
鈴木倫太郎
１
晒される光に身を翻して
また歩くという
自動的
立ち止まるようなことも
とりたててなかったと
今、ここを振りかえる
眺めのいいベランダに自分を干して、
その道に沿って
持ち帰って
つみ重なるところ、
流れのやすらぐ場所で
息をつく
２
日常の歌を歌い
そのときどきの言葉をたどることで
日々をやり過ごしてきた、そう呟いて、
襟をただし
深呼吸ひとつ間にはさんで
道を渡る
何が、というわけでもなく
子供の遊び、
考えることを探しながら
いつかあったことを
いつかまた忘れて
別に不実というものでもない
３
決まり事にはまっていくのは楽しい
陽差のそそぐオープンカフェ、
新聞と紅茶
地下を歩く人々に紛れ
目的を持つことは楽しい
辿りつくのはまた別のことで、
いたるところで
ひとびとを囲って
空気がとまる
ここの道、水のとなり、
流れとともにある気の迷い、
リズムの軋み。
４
吃らないように
気をつけながら
広場をよこぎる
売りもののように
言葉をならべて
そのちょっと先へ行って
際どさを通り過ぎたところで
少し右折、
そんなこんなで気は紛れる
つまるところ怖いのは自分だったか
帰る時を待ちわびて
朝日の中へ切りかえす
今月のピカイチ！
＊鈴木倫太郎プロフィールへＧＯ
Ｑ４心から好きだっていえる人、いますか。
理由がなくても立っていたっていいんだよ
絹川早苗
あの人が好きになった理由なんてないの 好きになるのは自由だから わけ
理由知り顔で言うわけじゃないけど
よ
自由は 自らに由るで
よ
理由は 理に由るなのね自由は 頼るのは自分しかなく 理由は 寄りかかるちゃんとした理屈があるわけよ わ け
理由 訳って言うけどわけって言い方 とても多いのね 日本語には−− ・ ・
「わけが分からない……
・ ・
「そんなわけですから……
・ ・
「やはり怒るわけだよ……
・ ・
「こうなったわけですから……
・ ・
「今更やめるわけには……
わ け
人はいつも理由を求めている
ひ と
他人にはわけで説明し自分はわけで納得する
わけ、わけ、わけ…なんてうんざりよって 外に出ると あたり一面の夕焼けで 赤い服の女の子と 山高帽の男の子が ならんで海を眺めている 抱き合ったっていいんだよ お互いに好きなのだったら…… 日はまもなく沈むだろうから
でも自由ってのは 山頂の空気みたいに 冷たいね
だからこの世は わけもなく美しく わけもなく 哀しい
詩誌『理由のきもち』より
＊絹川早苗プロフィールへＧＯ
Q5見たくないものと見たいものの違いって、どこからくるんですか。
ハコのおじさん
樋口えみこ
息の白い朝 都庁へ向かうみちの 朝 ハコのおうちを通ってく 生きている匂いがする あたたかくて臭い ハコのおうちにクマちゃんの人形が ぶらさがってた あ、クマちゃんだ
通路を抜けて ウソみたいなビルに入ってく
枯れた木々の小枝から 白いビニル袋が落ちてきた 豆電球に縛られた木々の周りを ちいちゃく舞った あ、 きれいだね、クマちゃん
詩集『なにか理由がなければ立っていられないのはなぜなんだろう』より
西新宿の風景も変わりました。
＊樋口えみこプロフィールへＧＯ