１９９８年６月号の詩作品
１「ノモ？」
★やっぱ、野茂いればこそ、ですよ、ね。
今月ピッカイチは
詩誌「letter(blue)1」より
飲茶の、これに決めだっ。
しり
飲茶
なんだか頼もしい
あんたが好きよ
ボキャブラリーなんか
へ
笑って
*ほんとは、「へ 」の後にハートマークが入ってるんですが、この記号、出るの？（ぺ）
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２「大発火」
★その装置はどの体にも内包されている。
切れる、という現象とは別の形。
力がいる、
本来、備わっている力なのだけれど。
いつか
発火したいあなたへ
詩誌「letter red 1」より
伊藤キムの詩を贈ります。
脳の導火線
伊藤キム
はたして想像力のスピードについていくことは可能だろうか？
あまりの速さに、髪の毛にさえしがみつけないことがある。
僕たちにできるのは、堆積した幾重もの地層の間にうずくまって
白骨化し、とうとう化石になってしまった想像力をただ見つめる
ことだけなのかもしれない。
蝶になりたい。時々そう思う。
道筋もなく、あてもなく空中を舞い、流麗なステップで花から花へ。
トロトロの蜜でおなかはいっぱい。
でもあたり一面は暗闇が覆いかぶさっているのだ。
盲目の蝶。夜の魂。
それが、体の中に舞い込んでくることがある。
すべり台でスライドしながら後を追っかけた。
ブラウン運動を繰り返すヒラヒラ。
黒の世界、追走するのは容易ではない。
核融合を続ける昼の魂。
ヒラヒラしてる夜の魂。これはケムリに似ている。
案件の立証を終えた蝶は、冷汗をかいて間口の広がった僕の汗腺を
するりと抜け、外に出ていった。
ひとり残された僕は、胃液に両足をポツンと浸したまま、溶解していく
自分を予感しながら恍惚としている。
天上では、昼の魂がこちらを睨みつけていた。
炎はそこから立ちあがる。
くすぶっている身体。大発火の日は近い。
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３「おとなこどもおとな」
★アダルトチルドレンなんて言葉、嫌いだよ。
もう子どもじゃない。だけど、無理する必要なんかもないさ。
オトナしている私の仲間へ
詩誌「あなたの使う愛してるの言葉はno.1」より
成田花恵の詩を贈ります。
あなたはとても泣いている
成田 花恵
とっても疲れたケットン
機関車やえもんは云ったものさ
絵本をパタンと閉じた音がして
目を開けると
おとなはもうどこにもいなかった
どこまでもどこまでも限りない
闇の機関庫で
少女の声が響いている
おとなふたり こどもひとり
おとなふたり こどもさんにん
おとなふたり
おとなふたり
おとなひとり
こどもひとり
夢は終わっていたのだろうか
素足のまま
トンネルの中を歩いている
長い暗いトンネル
それはそんなに
羨ましがられるような眠りではなく
ただただ歩きつづけるような
果てしない眠りだった
そこで泣けぱよかったのかもしれない
でも眠りのなかでわたしは
泣いたことがない
そこで泣かないなら
ここでも泣かない
みんなが泣いていても
わたしは泣かない
泣かないかわりにケットン
泣かないかわりにケットン
ふかくとおい幻に灯った
まなざしのように
わたしはただただ眠っていたかった
そこへ
おとな おとな おとな おとな
少女のくっきりした声が戻ってくる
気づくと
少女がわたしをじっとみている
おとな
と呼ぱれてうなずくと
少女は抑揚のない声で告げるのだ
あなたはとても泣いている
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4「キ、コエマスカ」
★言葉って、通じない。
と思ってると、時々へんに通じてる。びっくりする。
へんだ、へんだ、てーへんだ。底辺？
意味ある言葉に意味がないなら、意味ないこと言って
試してみよう、
なにか、言って。
混線模様のあなたへ
詩誌「理由のきもち」より
八木幹夫の詩でイテテ、カテテ、
異人ヒグチさんへ
八木幹夫
カカカカカ
ペカペカカ カカ
テカテカ
ペ
テカ
ペペペペペ
ンテカ
カテカテ
イテテ
カテテ
ぼく
ぼくですよ
どうも交信がきょうはうまくいかないな
ペンテカって
どういう意味か
広辞苑 大辞林 エンサイクロペディア 和英辞典
引いてみようとおもったけれど
やっぱり ワカンナイ
関内方面ではペンテカ語で話す方がいいのかな
信号を無視する
少年たちの爆音テテテテテ
関内のメインストリートを
オートバイのペペペペペペ
が走る
ぼくです
ぼくです
やっぱりきょうはうまく交信できないな
（ハイ ヒグチデス 八木サンデショ）
えっ ヒグチさんですか
どうして ぼくだってわかったの
七年前に一度会ったきりだっていうのに
（受信シテタノ サッキカラ
八木サンガドンナコトイウノカ
ズウットキイテタノ）
意地悪だなあ
早く返事してくれればいいのに
それにしてもペンテカ語はエスペラント語より
厄介なシロモノだねえ
しゃべっているそばから最初に自分が何をいったのか
わかんなくなっちゃうんだよ
ぼくの文法書には
とおの昔に私という主語がないけどね
最近は目的語も消え始めているんだ
ペンテカ語圏に巻き込まれたサガワさんが
あの晩 二次会の席で詩はこれから帰納法で
書こうと思うのっていってたけど
どこへ帰っていけばいいんだろう
テテテテテ
ペペペペペペ
混線してんのかな また爆音だよ
若い奴らってなんであんなに
寂しがり屋なんだろうね理由（わけ）を聞こうとすると
オートバイのマフラーで返事するだけなんだ
テテテテテペペペペペペって
（ン ワタシモソウヨ
マダ コノ ジダイヲ翻訳デキナインダモノ
ワタシ 翻訳サレタモノバカリノ世界ニウンザリシテルノ
注釈ダラケノ借リ物バカリ デモ現在ヲソノママ生キルナンテデキルノカシラ)
そうだよ 今なんだよ
でも今って瞬間はたちまち過去になるでしょ
こうして交信している現在があっという間に
星の時間 光の時間
記憶という物質になっていく
ココロも物質なんだ
でも物質の中にある
哀しみってどんなものなんだろう
ヒグチさん わかる？
テテテテテ
ペペペペペペ
（八木サン 久シブリニオ会イシタケド 少シ
太ラレタワネ アノ時ソウ思ッタワ）
だからさ あれは本当のぼくじゃないんだってば
本当のぼくはもうあそこにもここにもいないんだよ
（ドウシテ）
理由はさ
テテテテテ
ペペペペペペ
（ンテカ？）
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5「揺れている」
★昼間、間の抜けた時間に電車に揺られているのが好きだ。
いつまでも目的地へつかなければいいと思う。
（たいていは約束の時間に遅刻ギリギリで、
そんな悠長に構えていられる時は限られるのだが）
ついた途端に喪失へ向けて加速していく。
だけど、いつか目的地へ行かなければいけないと思う。
今日か明日か来年か、
じぶんの責任で。
さて、さては、南京玉すだれ
なっつかしの詩集「無邪気なワニ」より
樋口えみこのナマナマ詩を読んでみれ
かき抱いてかき抱いてかき抱いて
樋口えみこ
食べるときには吐くことを座るときには腰が 抜けることを人の前ではおならすることを 進めば転び溝を跨げば片足はまってしまう 飛べば頭ぶつけることを 信号渡れば轢かれることを サヨナラ言うときには鼻血が出ることを 猫を撫ぜれば噛まれることを 恐れる
本中島さんを腕に抱えているときは正博さん の名を呼び正博さんといきそうなときは 助川さんと叫びそうになり 助川さんと向かい合ってアイスミントティー をストローで啜っているときは 猿田先生の裸のおなかを希求している
水の中ではジョー・ディマジオの厚い胸板を 思い 熱川ワニ園でアザラシを懐かしみ クレペリンテストで暗算の最中スキューバダイ ビングの呼吸方法について考え 葬式では 安全日の算出を始め 研修発表公衆の面前 「ファニーとアレクサンドル」に出てきた エスパー少年（監禁されていた）その未来を 懸念し（打破しておくれよ） 夏の信州で イパネラの娘を探していて いないので落ち込む （水圧が・・・ ）
白夜の続く国を思うと憂鬱です 鳥取砂丘から首だけ出して満天の星を眺めて います 安らかなるむっちりした寝台を夢見ています 人の消えたクィーンエリザベス号の中に います 光輝く料理とグラスとシャンデリアの山に 囲まれて 揺れているようではあります
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