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空を渡る

倉尾 勉

また、会社の昼休み

１時まであと15分

公園になった

小学校の校庭で

新聞紙の上に寝ころんで

曇った空のかなたを見ている

桜の季節はとうに終わって

いない子どものはずむ息づかいを

知っている校庭の隅の

バスケットボールの

ゴールに向かって

もう、子どもたちが

とびあがることもない午後

指人形を紙粘土でつくった小学校の工作室

ガイコツがダンスして追いかけてくる

理科室から逃げ帰った

ぼくは指に持つ

杜子春の人形を

（ぼくの影を掘り返し

（いっしょうけんめい掘って

たからものを探していたけど

アスファルトの下には

貝の死骸しかなかったよ

からだをあおむけたぼくは

まだ、会社の昼休み

うっかり、ねすごしてしまうと

もう、会社にはもどれない

また、降り始めるだろう

声の出ない波のしずかな記憶が消していく

いま、六月の雨が

アスファルトトラックを濡らし始めています

ここから見上げる高層ビルの谷間は深い

海の底みたいです

その日

たんじょうびだったのですか

この場所で

おなじビルとビルのむこうの

広くて

痛い空を

あなたも見ていたのですね

高層ビルを見上げている顔に

うけとめている雨のしずくは

眼を濡らす涙のよう

ふと、亡くなったひとのことを思う

あるひとからのハガキに書き添えてあった

祖母が、そして

親しかった先輩が相次いで亡くなりました

祖母は病死でしたが、

先輩は酔って電車にひかれて亡くなったそうです

と、あったこと

でも、

「生かされている間は心をつくして生きていきたいものです」と

つづけてあった

その言葉に励まされ

眼に映る

雨あがりの青空をおもったこと

わたしはここにいますよ

でも、この詩は空に渡します

ひこうきぐもの先で

生きている者の空を

ゆっくりと漕いでいく

ヒトのあたたかい息に

受け継がれて

詩のリレー誌『ｌｅｔｔｅｒ 3』に収録

倉尾 勉 profile/2000.12top/home/今月の作者紹介