higuchi emiko
ゆーごー


私の歯は虫歯の治療中で
歯医者のクスリの味がする
こんなににおう歯と歯のあいだを
なめられるのって素敵だな
なめてるうちにくちの両端から
灰色のきのこがしゅーしゅーと
はえだし
地面に流れ落ちてあたりが
きのこに包まれて柔らかい
やわらかいベッド
一生眠ってもいいようなベッド
細長いコードの束みたいにきのこをひきずったまま
ポンワポンワとびはねて でも
くちはつながったままふたつのカラダは
くちから溶けていって
ゆーごーしてしまうの
ゆーごーしてしまうのって
気持ちいいかな
私には責任がない
私はくちからBになって
Bは私のセイシンを抱き込む
羊歯植物のにおいがする
もうなんにも
考えなくたっていいんだね



      詩集「なにか理由がなければ立っていられないのはなぜなんだろう」収録




おはなし


頭のいいフクロウ教えて
私の話していることが何なのか
目を閉じても終わらない
スクリーンの意味は何なのか
息苦しく広がる青灰色の空をバックに
彼が大声でしゃべってる
眠らせて よ

そこは昼 ?
乾いた平原の風が彼の唇を切る
赤い赤い彼の唇が動いてる
「 ・ ・ ・ 」
何て言ってるの
でも聞きたくない
ガシャガシャ
丸めて閉じたいのに
つっぱった両手が邪魔
そこにいるのはどうして

黒い服を着ている
黒い帽子をかぶってる
若いとてもあなたは若く
私の力ではどうにもならない
でも
目を覚ますこともできないの
空が

圧倒的な力で
明日の予定をプレスしてしまう
明日、あさって、ずっと先、
そんなこと

白い
空には血の色が鮮やかな金属音を響かせている
ねえ
いきたい ?




    混線ぺんてかvol.9」収録



    過ぎていった時間に祝福と決別を

樋口えみこ profile/99.12TOP/TOP PAGE/今月の作者紹介