動物性脂肪ゼロ
シル

ベランダの痩せた母に声をかけ

しなびた馬鈴薯をひとつもらう。

「エミさんにあげるんだ。」

母は貴重な馬鈴薯を僕に託した。

「牛蒡も持っていく？」

「ううん、牛蒡は目立って危険だからいい。」

エミさんはクラスのお姫さま。

６回生の今年。

＜クラス＞の女の子は年々減っている。

いまやカオリさんと２人だけだ。

しかしカオリさんは痩せているので人気が無い。

僕がカツアゲされないよう

そっとエミさんに馬鈴薯を渡したみたいに

みんながエミさんに食べ物をあげて太らせる。

眺めるだけの窓の外。＜死灰＞の街。

生物は僕らだけ。スカイウォークに乗ると

脂の切れた膝がぎしぎしと鳴って

ふっくらとしたエミさんの頬が恋しい。

ステーション構内のネズミ取り

思考傍受を恐れて僕は鼻歌でジャミングする。

無人警察が循環しているウォーク内では

誰もがエミさんを口説き落とそうとしている。

ポリスのサーチ外。

プライベート・エリアに誘い出そうと。

シル profile /99.11top/home/今月の作者紹介

「感性の無人警察って感じだねぇ。」