☆投稿作品☆　　　　

南 瓜 の 花 奥野雅子 「いつでも電話していいよ 「淋しかったら 私の部屋が暗闇にしずむ時間 体が水のなかに落ちていきそうでざわざわする 心の中に池ができて 淀んで　水藻がういている 　　　　　　　　　　　　　　　　　 受話器をとった 　――――――――う・・・ん。 その人の声がふるえている さざ波だって　波紋がひろがっていく （疲れてたの？ （いまダメだった？ そんなこと、ないけど。 と言ってくれたその人に 私、わたしは、 池ができて 眠る時間になってもそこをとおれないの。 「そんなに落ちこむなら外へ出ようよ ほの暗い街灯の下に 舗装道路がまっ直ぐにのびている 私の家と彼の家の中間ぐらいの場所に 緑に繁っている葉 南瓜畑がある 南瓜の葉が地面いっぱい這って きれいに晴れわたった月空の下で 家と　家との間を うめつくし零れ落ちている 彼の声がやさしい 南瓜畑まで 出かけた ふちのひらひらした葉 太い蔓 空に顔をむけて咲く黄色い花は ところどころ咲きおわってしわしわしている 彼はむこうで 南瓜の花を見つけておもしろがっている 彼の声がやさしい 無数の黄色い花は 葉の池の中できらめいていた 私も彼もおなじ 水平線の上にいるように 彼は骨ばった手で 花のひとつひとつを私に見せてくれた 根もとは満月のようにまあるく膨らんでいた 目がなれてくるとトマトぐらいの大きさの 青い南瓜が花の咲き終わった跡に　いくつも いくつも　まだつるつるの表皮を光らせていた 見つけて　うれしくて　撫でていると 私の涙のあとが粒々に　地面に落ちて黒い染みになった　　　　　　　　 　　　（きっと、この下は水なのだ） 彼は骨ばった手で 私の首筋を撫で 肩をたたいた 水だから　こんなにも　やさしく揺れる 彼は家族のように親しく 私の肩をたたき 私たちの腋から汗の匂いがただよい 土の匂いとまじる 夜空の下で　きらきらしている　南瓜の花 葉の生い茂った だれか見知らぬ人の土地に 私と彼が立っている 畑の土のうえに　月明かりに影を落として 葉の池が　やさしく揺れる 私は　今日 大切な人をうしなったのだった 　　　（今　ここで　あなたは 　　　　誰のことを愛しているのだろう） 南瓜の花が揺れている この下には水があるから 夏の畑の土の温度に 私の目のふちが熱い

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「いい詩だよねぇ。ただ、途中で俺には関係ないって気がしちゃうんだよねぇ」