ふかみどり
山中隆史
みどりいろのあの人は
金属の匂いがします
ぼくらは
途切れた
二本のレールのように
並んでいます
時おり
思い出したように
一つになります
−おかえりなさい
−ただいま
−まだ いらっしゃったの
−はい まだ います
−そろそろ あちらへ
いらっしゃったかと
−ぼくも
そろそろと思うのだがね
角にラーメン屋ができてね
トンコツ風味にさそわれて
ついつい こちらへね
−そうですか
じゃあ また おでかけですね
−ハイ それでは
−さようなら
−さようなら
桜の木が
森のすみに
一本
立っております
置き忘れられた
傘のように
時おり
思い出したように
パッと開き
花びらを
ふわふわと
気配のように
ただよわせ
それは
いくすじもの
流れと なって
暗い気配の
森へと吸われていきます
時おり
思い出したように
ああ 忘れてしまった