清潔な砂漠
高階杞一

ここはうるさい

妻が工事現場の削岩機のように吠える

こどもが泣きわめく

暴走族が走る

選挙カーが走る

電話が鳴る

掃除機がうなる

部屋の中をゴミ溜のように散らかしたまま

股を広げて坐り

テレビを見ながら大声で笑う妻が

目を吊り上げて吠える

時には激しく噛みついてくる

で、こちらも吠える

うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい

頭がぐちゃぐちゃになっていく

どこでこんなふうになったのだろう

（ヒステリーに効く薬ってないんだろうか）

これならまだしも

噛みついてこない分、工事現場の削岩機の方がましだ

あまりに激しい時はドアを閉め

自分の部屋に閉じこもる

それでも襲ってくる時は

外へ逃げ出す

外へ出て

公園のベンチに坐ってぼんやりと

空や

まわりの景色を見ていたりする

目の前を

時折 楽しげな親子連れが過ぎていく

何だか切なくなってくる

どこでこんなふうになったのだろう

どこで間違ったのだろう

知らないよその子が

こちらを向いて

手を振った

「大佐、あなたを砂漠にひきつけているのは何ですか」

と聞かれ

「清潔だからだ」

とアラビアのロレンスは答えたという

清潔な砂漠

ぼくも

今はそんな場所にあこがれて

『ｌｅｔｔｅｒ』掲載作を改稿、詩集『春'ing』に収録　
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