読まずに、来てしまった

春のこと

梨々

空き地の片隅で割った

1ページ

帽子のようだった

降り注ぐ日差しの高さが

やがてなだらかに色を落としてゆくとき

波立つ時間を留めて置くように

影を作った

言葉のかげに

さらされている

ひんやりと茎が折れたようなところで

はじめてじゃない出会いを果たす

はじめてなのに

公園の土はところどころ

足跡でぐちゃぐちゃにする

しおれた茎の

影が薄くなったところをつまんで

そっと

匂いを指につけて

あなたには会わないから顔も声も

付け足して

あたしの

最後の手段にした

根にも小石にも

触れられるものならなんにでも

届くような気がしたり

くちびるに触れてチェリーを食べることや

ワンピースの最後のホックみたいに

神経がまとわりついてくるのも

近道なんだね

遠回りしないことは

まっすぐに

あなたを忘れること

野の花が咲き、小さな声が潤う

小道は水に浸されて

反響する

すべての言葉に

すべてのかげに

やわらかな触手が伸びて痛い

ひざを覆う

1ページの総称を

あなたがつかんだ皮膚として

空を包む

あなたでいっぱいにして

あたしのかげはおとなしい

春の風など吹いて

鳥の声が

野のあちこちから飛び出してくるのでした