penteka guest
　山下 由

時間という味方 　昔はなあ 　川がある街に住んでいて 　暮らしも狂った川のようだった 　女をくどくこともできなかったが 　俺の静かさはとても野蛮で 　毎晩　血を飲んでるような感じだった 　恋ってのは 　河原に生えてる白いヒナギクみたいで 　名前もなければ　甘さもなくて 　ただ心に突き刺さるだけだった 　何を考えていたかというと 　何かを考えていた 　つまり球体の内側の完全なからっぽに 　少しでも近づくというだけのことさ 　いくら考えても疲れることはなかった 　どこにもないものを探して 　ありもしないものだけが友達だった 　俺は生まれてから一度も夢から外に出たことがない 　時間という味方がいて 　時間は俺たちを愛していた 　川のある街に住んで 　20 April 2007

REALLY WANTED SOUND 　春が足早にリズムを刻んでいる 　地下のあの店でも　みんな忙しく働いているだろう 　太平洋をゆく船の上を風が吹き 　船乗りたちの心臓は急ぐ 　君が僕の名前を呼んでくれるだけでいい 　ツバメたちが南半球からやって来る 　巣を作り　子供たちを育てるために 　春は悲しくて　目をあけていられない 　ピンク色の霞の向こうがわに君がいるのに 　悲しくて　目をあけていられない 　あの大昔　南太平洋の島で踊っていた頃（酋長だった頃） 　ネバダの丘でバッファローを見ながらキスをしていた頃 　（日本の）蜻蛉が飛んでいる池のほとりで泣いている妹の下駄をさがしていた　あの昔 　日が暮れて母親が僕たちの名前を呼んだ 　雌牛のようにせつない優しい声で 　ピサの斜塔は傾き　せむし男の涙は落ちる 　マリアは教会へ急ぎ　牧師たちをやりこめる 　愛は荷車に乗せられ　埃の舞う丘のてっぺんまで来た 　僕は春の北風の中で思っている 　君が僕の名前を呼んでくれるだけでいい 　君が僕の名前を呼んでくれるだけでいい

山下 由 profile
今月の作者紹介
TOP PAGE