ある戦い　　　　三浦志郎

あなたが

流れる川であるならば

わたしは

硬く黒々とした岩の肌になりましょう

あなたはぶつかり　斥けられ

飛沫となって散るでしょう

しかし　わたしは

あなたによって長い歳月を侵食され続ける

丸い姿になる日が来ることを

どうぞ　思っていて下さい

あるいは　

わたしは　さらさらとして優しい

砂の粒子の集積でもよいのです

あなたの身体を

吸い尽くし　飲み尽くし

飽くことを知らなくなるでしょう

どちらを選んでも

わたしたちは

刺し違え混じり合う

別性の川と岸辺

見知らぬ人が見れば

それはひとつの戦いでした

世の常の男と女が

絶望とすりかえて

くりかえす甘美な過ち

こうも言えるのです

わたしたちは個々に

歳月という戦場（いくさば）に放り出され

離ればなれの土地で

孤軍として戦っていたのです

それは

忍び　抗い　挑むことでした

空白と呼ばれた

時の大敵に向けて

その報われなさは

わたしを

無言のうちにあなたへと対峙させました

戦いといい　対峙といい

言葉が不穏なら

ゲームと言い直してもよいのです

先に手出ししたほうが負けのような

それならば

ああ

わたしはあなたの手中に

あわあわと浸され負けを喫したのです

いいえ　違います

毛ほどにも思いませんでした

どうしてあなたを憎むことができましょう

ええ　そうです

ふたりの

川と岸辺の耐久に

痛覚と悦楽を感じたわたしが

自分を憎んでいたのかもしれません

時が移るということは

髪が伸びることと同義

あの一別以来

わたしの髪は重くなりました

後ろを振り返ると

無意味になびく今です

見失うこと

あなたの水の身体が

あまりに眩しくて

水の中の何処に

あなたの芯があるのか

気配だけを頼りに

わたしは舌を固くして

あなたのその核心に触れましょう

日々の枯渇を癒すひとすくいを

言葉と身体で

相まみえた過去のように

わたしたちの

激しく

優しすぎた戦意