１０月のピカイチ

湖を盗りに 　　　　　　　三浦志郎

「お住まいは？」と聞かれて

「○○市です」と答える

「いいですねェ」とは言われるが

自分ではそうでもない

奈良・京都には遠く及ばないし

ただ広大な海があり　ささやかながら山に抱かれた土地

あるいは

好きと言えるのかもしれない

が＿＿

私の住む市には

湖が足りない

というよりも

皆無　絶無　NOTHING

それは　ひとつの断絶

湖水をひと掬い

この水精のたたずまいはどうだ！

この水底には何が潜むのだろう？　と

人々を身投げさせるほどの

水の

美　集積

宿命づけられた自己完結と魔力

を欲する（（たとえば西湖のような）

私の欲望は

地域のそれと隣り合わせてしまったのかもしれない

今は

そんな湖を探しに

あわよくば盗りに

水のエゴイズムを

ねじ伏せ

なだめすかして

こちらに連れて来る

その算段は整った

夜陰に紛れて　私は

生得の名前をちぎり捨て

仮面をつける

湖を眠らせる眠り水をコップに一杯

縄を持ち

ルーフには小舟を一艘

車に乗り込む

県境を越えるのだ

地図に一点

コバルト色の瞳を

書き加えるために