刺青

伊藤浩子

その人から聞かされた

王に首を刎ねられた女の話

食前の祈りに手間取り

怒りを煽った

女の最後の

ドレスの柄はなんだったか

側近だった夫は

底なし沼に放り込まれてさ、

残された父母と子どもからは

光を奪った

王の夜は赤い

いまでも

そこまで一気に話してしまうと

その人は

あたしの体のすみずみに

自分の夢を刺青していった

目だけはいつも黒くて正直だったから

あたしの胸はしんとなる

王に首を刎ねられた女の気持ちで

横になり

赤い夜をあたしは待つ

その人の夢が放たれて

虚空に踊りだすのを待つ

紺碧の空に

照りつける日差し

大地は静かに

女の影を受け止めている

硬い輪郭の

見えるものだけが世界を決める今朝

ドレスを脱いで

死に向かう肉体を

女は　ゆっくり

解き始める

うなだれた

女の白く細い首筋に

目立たぬように

刺青のあと

かなしみのあと