11月のピカイチ

日記　　毬藻・作

某月某日

こどもが

赤いクレヨがすぐなくなっちゃうよと叫ぶ

お日様は赤くないよ

私はそう言えずに

古い文房具屋でばらの赤色を買いました

あめのちくもり

どうしているの？と

友達から電話がかかる

左目で　もうもうと煙の出る鍋を

半殺しにしながら

こどもに指先で合図

火をとめて！

友達の知りたいことは

私が単なる別居なのか　それとも

離婚をして実家に戻ったのか

ことばを濁すうちに

心が腐乱して青い苔が生えてきそうで

また電話するね

と頑なに　電話を切りました

ダレカモイッテタデワ　アリマセンカ

ヒトノフコウワ　ミツノ　アジ

明日までに運動会の

うさぎさん帽子を作ります

こういうのが苦手で

ひとまかせだった育児に

ためいきつきながら

リスのような耳の

うさぎができました

桃色に塗るんだ！

こどもが耳元で蚊のように

ぶんぶん唸りました

某月某日　台風一過　すっからかんと晴れ

ました

ビデオ三昧の黒山

の人だかり

ふくらはぎだけ　かろうじて映した

運動会のかけっこを

何回も見ましたが

まあちゃんは何処にいるの？

とこどもが泣くのです

ああ、

この黄色い靴下の子が　そうだよ

それは確信も無い言葉で

こどもは騙されて寝付きました

お月様では

桃色のお団子をつくっているの？

さっき私は答えることができませんでした

真夜中

ぱたんと

ドアを閉めるように

日記の表紙をたたむ

育児

とはひとりでするものではないようです

毎晩

かさぶたのように想い出がくっつきます