何人分かのパン　　　　　山音かかり

むしろ私は紅茶の

引っ張られるように濃度の帯がほどかれていくのを

見つめていた

隣でつぶやいたであろう男の声は

拡散して消えた

帯にはアラビア文字が書かれていて

それを読む祈りの時間に思えた

皆　西へ首を垂れ

しておくべき生活の言葉を咀嚼する

口をもぐもぐやっている

それが男らの祈りだ

小麦粉をたくさん入れたバケツ

足りない水が苦しいように　不整な欠片を生み続ける

これでもかこれでもかと

つながったり、離れたりしながら

どうやら足らないのは

ほんとうは水ではなかったのだと

うすうす気づき始める

それでも、

栄光とでもいえる黒い鉄のような腕が

小麦の不全な欠片をつかみ取り、

あちらへ連れて行く

見事に練り上げられると、それは救われた面持ちで

調理台の上に並んだ

いまや白く膨らんでいるそれらは

神聖に包み込まれた。

憎悪や不安を中にじゅうぶん含んだまま

焼き上げられるのだ

祈りの時間はとうに終わったのだから

紅茶がさめてしまう前に

パンを手にする