アメ横　なつものがたり

毬藻

アメ横にはアメリカのものが

たくさんあるの？と

子供に聴かれて　首を傾げる

町の由来など知らないが

切り売りのパイナップルを

すっぱそうに食べながら

心にはねが生えるってこのことだ

しゃがれた声のおじさん達

毎日冗談めいた寅さんみたいに

汁けたっぷりのくだものを売る

茶髪の少女は

いっぱい百円のかき氷をつくる

「シロップかけほうだい」

嬉しがるこどもたち

たちまち

けんかをはじめても

この賑わいに溶けて消える

ドラマのような

配役がぎっしり詰まっている

母子家庭のわたしは

ここで働こうかなどと

ふっと考えて

こどもに聴いてみる

駄菓子屋があるから楽しいね

手を引かれて

小さな店の階段を上がると

ふんわり

なつかしい匂いが私を誘った

アメ横なつものがたり

家庭のある人と

一度だけ歩いたことがある

秋葉原電気街

御茶ノ水神保町

わたしたちは

そんな所ばかり

未来のデートコースに夢見たけれど

あれも真夏の盆近く

立ち止ると

どでかいビントロひとかたまり

たったの五百円だよ！

胡麻塩頭のおとこがどなる

買った！

ソレカッタ！

淡い恋の靄を晴らすように

叫んでみる

しゃがれた声のおじさん達

毎日冗談めいた寅さんみたいに

汁けたっぷりのくだものを売る