果実　　　　　伊藤浩子 　背中を 　ぞくぞくと 　今夜は走ってゆくものがある 　たずねてきたお前に 　もてなす 　熟れた果実 　さあ、お食べ 　お前はなんだか 　疲れたようなかおをしている 　これはわたしの 　熱でできている 　からだがあったまる 　せいもつく 　旅のとちゅう 　砂漠のらくだはいつだって 　とおい眼をしていた 　黄土のまいあがる 　みちのかなた 　かたむく太陽に 　丸めたせなかをやかれ 　かなしい眼をして 　じっと見ていた 　けれど 　今夜はなんだか 　お前もさえないかおをしている 　さあ、お食べ 　つまむお前の指のすずしさ 　かじるお前の歯のすずしさ 　それはわたしの 　熱情そのもの 　毒はぬいてある 　すっぱい日々の残滓は 　そこへ吐きすてて 　すっかり冷めてしまわないうちに 　さあ、 　めしあがれ