ボタニカルガーデン

川内遥

春ですので

あったかいですので

ボタニカルガーデンに行きます

もう帰りません

と置手紙を残して

アイは去っていった

そのとき俺は

ガラムマサラの効いたインドカリィを食して

部屋に戻ってきたところだった

げぷ

ぷー

と屁までこいたのに

部屋には人の気配が無い

いつもならアイが

もうおならやめてよー、さいてー

とか言ふところなのであるが

部屋の黄色いコタツの上の

銀のトレイの上に

その置手紙はあった

まずそれが本当にアイのものなのかどうか

匂いを嗅いでみた

まちがいない、アイの部屋着の匂いだ

部屋にいるときはたいてい紺や黒のトレーナーに

赤やピンクのジャージだったアイ

でも、まだ分からない

筆跡鑑定を猫のジャスパーに頼むことにした

ジャスパーはアイの拾ってきた猫で

右耳が欠けていて部屋のあちこちにおしっこを

する虎縞の猫だ

ジャスパー、ジャスパー

俺は呼んでみた

が、猫もいなくなっていた

俺もやうやう独りか

そう思ったとき

部屋の扉をノックする音が

聞こえた

放っておくとそれはますます大きくなり

次第に部屋全体が細かく揺れるようになった

神様でーす！！！！！！！！！！

あなたの必要としている

ココロから必要としている

かみさまでーす！！！！！！！！！！

出てきなさーい！！！！！！！！！！！

結婚しましょう！！！！！！！！！！！

一生、あなたを幸せにしまーす！！！！！！！！！！

明らかにアイの声だ

俺はまだ答えをしぶっている