3月のピカイチ!
洞窟 毬藻
わたしのからだに 洞窟が生まれてしまったの ある夜 男が言った おれは性病にかかったんだよ とある場所に行ったと 男は言った
検索する クラミジア とゆうむずがゆいことば しらみに似た音感のする やがてわたしをくるわせた病名
わたしのからだにも その異端者ははびこったの それからというもの わたしのからだに 洞窟が生まれてしまったの 特効薬でおさめようと けっしてくつがえすことの 不可能な洞窟
あるとき インターネットで ＨＩＶかんじゃの写真を見た
板張りのベッドで ひがな一日うごけなくなるまま 水を口に含むだけ カメラマンが尋ねると 数日後に彼女はいなかった
わたしのからだに しろいくすりが散薬されたのだが まだ別の病原体も からだに繁殖して行くきがする あのひから わたしは 一生涯の臆病風に吹かれて なやましい場面のドラマなど いっさいみるきがしない
ベトナムの収容所 出稼ぎにゆめを賭けた若いおとこたちは なまめかしい素肌の くものすにひっかかった
ちいさくうずくまった赤ちゃんの そのやわらかい細胞の死角にまで 病原体ははびこってゆく
男 と別れた日 わたしは とりもどすことのできない 時間の無能さにきづいた
わたしのからだに 長くつづく夜道を いつまでも 切れた外灯は照らしはしないだろう 男の名前を それでもつぶやくわたしは 相当な馬鹿者にちがいない
さよなら グッバイ 再見！
どんなことばでも 性病の名前よりはうつくしい
再見！
風が吹いている 二度と閉鎖することのありえない わたしのなかに生まれた たった一つの くらいくらい洞窟にむかって