10月ブンのピカイチ

かきまぜる

川内 遥

卵を割って、入念に黄身と白身の間のもやもやを

とりのぞく

なんだか自分を嫌いになってしまいそうだ

キッチンの高さがぼくの身長に比べて低いので

ぼくは腰を屈める感じでもやもやを取っている

そばでラジオが

「農村の朝は早いです」

という

そうだろうなと

頷いて腰が浮く

あやうく黄身をつつきそうになる

が

なんとかこらえる

次に醤油と味の素をかける

味の素

どこへやったっけ？

「関東地方は午後からところによって雨」

ああそうなんだ傘の用意しなくっちゃ

「傘の用意を」

わかってる

あっきらしてたんだ味の素

「自然のままのおいしさで、いい」

そうだよな

かきまぜる

「彼女とは別れたのか？」

そうなんだよ

「男か」

いやぼくに生活力がないって

「共働きは？考えたのか？」

相手の両親に反対されて

「それでどうするんだ？」

どうもしないよ

「それでもお前、男なのか」

そんなこといったって

し　　ょ　　う　　が　　な　　い　　だ　　ろ！

「手を休めるな」

うん

ご飯にかける

「うまいか」

うん、うまい

「今日彼女に電話してみろ

彼女お前のこと、待ってるぞ」

本当かい？

「本当だよ」

「本当よ」

「ぼくを・・待ってたのかい？」

「ええ」

「本当に」

「本当よ」

「・・一緒に・・なってくれるかい？」

「・・ええ・・ええ！」

「！」

「！！！」

「！！！！！」

「次回の放送はパリ支局からお伝え致します」

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