帰路につくあなたの小さな背中は
それでも妹に似ている
ジーンズの細さも
頬のまるみも
黒い髪も
明らかに妹の血のながれる音がする
遠いかすかなおとだ
その音のよくきこえる範囲であたしが生きていた頃に
おもしろいことはいくつもあったよ
ふしぎなこともいくつもあった
真夜中の人影 だとか
壁の人型のシミ だとか
そんなことを少し思い出した
思い出すとしあわせになれるよ
夜に吹いたシャボン玉 だとか
布団で作った基地 だとか
遠いかすかな妹の血の流れはやがて
野太いふるさとの血の流れに飲み込まれる
ドク ドク ドク
傷つけるとイタイデショウ？
糸のような妹の血はやがて
針のように鋭くふるさとをさかのぼり
それはいつかあたしの錆付いた血の流れをつらぬく
そうつらぬくつらぬかせなくてはいけないもっと切って深く
今度はあたしの左手を
帰路につくあなたの小さな背中に
芽吹こうとしているもの を
共に見送る
優しい時間を惜しげもなく消費できた
１２歳の背中に
母譲りの血のつばさが埋もれている
今度は
どう飛ぶの？
汚れた手をした無垢な日々が
あたし達にもあったよ
思い出せばしあわせになれる数々の
数々の
そんな話をしてあげると
嬉しそうに聞いていた
抗いながらも愛したい気持ちが伝わるから
きっと
大丈夫
帰路につくあなたの小さな背中が
通路を渡ってもう見えなくなる
平坦な胸が膨らむ頃には
やせた肩甲骨を突き破り
血しぶきをあげてつばさが立つだろう
そのときは
自分の意志で
羽ばたかせなくてはいけないよ
孤独な塔の頂上へと
つばさに連れていかれぬように
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