投稿作品
旅 ／ 毬藻
お金など無かったから 一つの小さな町を くまなく歩きとおした 腰の曲った老婆に海までの道を聴いたら すぐそこ が数時間 迷いあぐねて 海と言っても 貨物船の停泊する港だった
手を繋いでいると 子宮まで波がざぶんと寄せて 返すことのできない波は 汗ばんだ夏の手でにぎりかえした 青空にこどもの顔が浮かんで そう思うと 天候も曇り始めたので いけないことをしているのだと 足をぶらぶらさせながら 港の隅っこに越しかけて硬直していた
ホテルで火災が起きて 焼け出されたら みんなに名前が知れて あなたは大学をやめて わたしは家族を捨てて どうしようどうしよう そんな言葉に始まり終わる 悲しい旅なんか なんで来たんだろう
あなたはまだ 若いからわからないのよ そう言って 抱えた家族を やじろべえのように よっこらしょ、と片手で支える あなたは気侭な わたしの言葉に弄ばれて そして みるみるうちに 石のように浸食されてしまうよ
波音がざぶんと寄せる 砕けても砕けても もう旅に来てしまった 平手打ちで わたしの言葉を吹き飛ばしてよ ポップコーン 撒き散らすような あかるい歌で 不時着するしかない 哀しい恋を 赤裸々に罵ってよ
こんなに大きい夕焼けとか 潮風の匂いとか かならずリアルタイムで 其処にいるみたいに 思い出せるように