7月のピカイチ！
腕 山本しのぶ
土砂降りの雨が 夜の地面を打ち鳴らし 音を たてる
泡立つ粒のなか 両手を伸ばすと 暗闇の中に浮かび上がるなま白い皮膚の上にも 乱暴に冷たく 心地良く弾けて 音を たてる
その瞬間 駆け出したい衝動が胸を突く
どこか 夜の匂いの濃いところどこか あたしを打ち鳴らし 強く響かすところ どこか呼び止まない声のするところ どこか どこか
雨に犯された腕は 温度を奪われながら 夜に投げ出されたまま上気してゆく そうして執拗に囁き続けられた肌からは 雲の匂いがする ああ それは 渦を巻いて流れていった あの時の 雲の匂い
あたしを見下ろしていた やがて始まる嵐を告げていた あの時の あの精悍なまなざしの あの雲の においだ
（あたしを打ち鳴らし） （強く響かすところ） （呼び止まない） （声のする） （渦の果て）
土砂降りだった雨は いつしか小雨に変わってゆき あたしを連れ出す前に もう情熱を終えようとしている 差し出した腕に 打ちつける烈しさも萎えて いま
急にフェミニストの顔をして 雨は あがった
つややかに 地面は濡れて潤い 雲の吐息がまだ柔らかく漂っている夜気のなかで
あたしは熱く濡れた腕のまま どこにも帰れないでいる