裸のからだ／樋口えみこ

あなたはいつものように周りの人を意識しながら

裸のからだを鉛筆で描いている

あなたは小さな椅子と机のあいだに太ったからだを

押し込め丸くなって汗をかいて座っている

焼けた小学校には石炭小屋がありました

石炭小屋を通り抜けて視聴覚教室へ入り

膝を抱えてＮＨＫ教育テレビを見た

裸のからだは伏せって後ろを向いているだからあなたは

裸のからだとわからないように裸のからだを描き

三角形や九九を　たすやひくや金魚の観察を

裸のからだに挿入する

あなたには表情がない

保健室のドアを開けて手術台に寝ころぶと

台の上で中年のおなかだけぽこんと盛り上がる

そしてあなたは冷たい指が瞼を閉ざしてくれるのを

待っているのでした

手術台にいてあなたはついに裸のからだを開けられる

突き出たおなかをスパンと切ると内臓はきちんとしている

触るとあなたは瞳を開く

内臓を観察しやがて元通りに蓋をすると

裸のからだは何ごともなかったかのように

起き上がりドアから出ていく

実際何ごともなかった

あなたは証言する

緑と黄色のチェックのトランクスを履いて大勢の人の前で

証言する

裸のからだは悪くありません

（妻は きいっ と言う）

ご静粛に

教室の机からあなたは電話をかける

裸のからだを指で擦りながら呼び出し音に耳をすます

小学校からつながる電波の流れが

夫婦の寝室へ到着する

私は眠りを脱いで青い毛布に裸を包む

手術台の前の青くて暗い廊下には長い列ができている

（しゅじゅちゅ）

列の一番最後について待つ