今夜は月が綺麗よ、と
オレは真昼にメールを受けた
冷めかけた珈琲は愛想無くて
習慣がそうさせるだけの
灰皿は山盛りだ
敗北感に打ちひしがれているのは
実はオレじゃない
オレはそれを認めない
かつて旅をしたように
かつて女を抱いたように
かつて終の棲家と決めたように
オレはその時そう決めたのさ
もうすぐ夕日が沈むわ、と
オレが受けた真夜中のメール
目覚めてしまった暗闇の
目玉の裏側に張り付く夢に
マラソンをしているオレが居る
自分は意外と愛の人間なんだと
苦笑いを噛みしめたのさ
（ 気を付けて
悪女は秘密を握ってる ）
そこかしこにオレは居て
オレは居ないが地球は回る
だけど自分の足だけじゃ
アフリカ大陸は目指せない
明日の夜はどうしている？と
オレは先ほどメールを受けた
生憎だけども明日の晩は
他の女と野暮用で
ちょいと難しいんだなあ
どうしようかな どうしよう
しかしお前は誰なんだ
一体全体どこに居る
オレを惑わすにくい奴
（ 気を付けて
悪女は秘密を握っている ）
オレの受けた幾つかのメール
気まぐれ風が吹く様に
時々迷い込んでくる
顔の見えないその女
髪が長くて色白で
いやいや、あんまり見たかねえ
見ない方がいいだろう
ともすると
片手にナイフ、片手に傷薬
片目に泪、片頬に微笑を浮かべて
気狂いのふりをしながら
今日もまた
株で儲けてるのかも知れないぜ
と、昨晩飲み友だちに言われたのさ