投稿作品




 ジャックフルーツ叙景
 木村 靖




     
 昨晩、君が綺麗だと言ったあの真夜中の色で仕上げたら、
 隣のタカハルさんの額に入れて届けるつもり。
 山の向こうから雨季の雲が、
 もくもく涌くまでの短い太陽の時間。
 たるんだチェーンをだましだまし、
 流木集めから帰ってきたタカハルさんに挨拶もそこそこ、
 畦の泥跳ね上げて右足、左足と踏むペダル。
 あんなに威張っていた月さえ跡形もない。
 今や僕の絵の中。
     
 不思議なことを数字と記号の羅列にかえて、
 残った時間をひそひそ話しに使うような毎日が、
 ワタシをここに来させたのと君は言った。
      
 でこぼこの歩道を掃く箒の音がこだまする。
 捌かれるのも知らずウロウロと鳴く竹篭の鶏。
   
 確かに僕も生きることなんて簡単だって教わったさ。
 そして死ぬことさえも。
 夜に蠢いているものに目を凝らさないように。
 形をはっきりと言い当てたり意味を深く考えすぎないように。
 そんな当たり前の生きる智恵を僕らは子供のようにここで教わる。
 運命は簡単に僕らをドーナツみたいにツイストさせて、
 人差し指を三回横に振っておしまい、
 そんな結末にさえ、表情も変えず。
     
 だから君の泊まるホテルの道すがら、
 学校に覆い被さる夜のガジュマル、
 君にその絵を渡したいんだ。
    
 昨日の晩のあの不吉な月も、
 今や僕の絵の中。
  
   











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