またどこかへ行かなくてはいけない

樋口えみこ

等々力渓谷は続いていた

街にある川を私は知らなかった

元同僚の彼とどこまでも歩いていた

鴨がいた

すぐに終点が来てしまった

元同僚の彼とどこへ行こう

善人会議の芝居は続いていた

ずっと前も元同僚の彼と放火魔ツトム君の

お芝居を見ていた

去年の５月７日だと元同僚の彼が言った

ツトム君はあいかわらず火を点けていた

駒場の東大は続いていた

崩れかけた学生寮で誰かピアノを弾いていた

電気は通っているの　と私は聞いた

私たちはひたすら歩いていた

ひたすら歩いてまたすぐ駅へ

戻ってしまった

善人会議の芝居は続いていた

いつまでも続くようにゆっくりと見ていた

ツトム君がさよならと叫んだ

「物語の終わりにはいつも別れが」

本多劇場が早く横浜にできるといい

夜は続いていた

駅前の居酒屋でさびしさは続いていた

元同僚の彼の九州の話は続いていた

会社の話は話すことがない

葉書をもしかしたら書くと元同僚の彼が言った

やっと終わりと手を振ったけど

またどこかへ行かなくてはいけない

詩集「無邪気なワニ」より
この詩は好きですが皆様に要望しているようなことはできていないのです

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