penteka takashi yamanaka
山中隆史
南へ
＠
部屋に帰り、窓を開けると、夕立、大粒の雨
また、出かけなければならない
TEL
６時２０分ぐらいになってしまうが、いいかな？
かまいません。６時閉店ですが、開けときます
雨の中、傘をさし駅まで歩く。。誰かが、置いていった傘。
みちが、あめにおどりだす、はじけだす。。
不意に雨が弱まる。また、強く。。。 。。。。。。。
電車に乗る。南へ向かうにつれ、人気がなくなり、明るく、雨が晴れていく
I駅で、電車が止まる。扉が開く。空気だ。空気の発見。
人々が降りていく、ぼくは、シートに腰掛けたまま、ぼんやりしている。
終点だ。ぬれた明るいホームに立つ。電線から、水滴が、透明度を増しながらおちて
くる。それを受けとめようと、手のひらを開くと首筋に落ちる。
向かいのホームの下に蛍光灯が２本並んでいる。青白く燈っている。
雲が不思議な亀裂を作りながら、形と色を変えていく。止まっている。電柱といっ
しょに、灰色の町並みと、いっしょに、ぼくは止まっている。動いている。ぼくは動
いている。風といっしょに、輝くものと、雲と空気と、地とともに、ぼくは流れ続け
る。得体の知れない、心地よい時刻と、広がりと。いらない。いる。いらない。い
る。いらない。いる。叫びたくなる？ いいや、くすぐったいように、おかしいだ
け。
乗り換え。さらに南へ。日が沈みながら、明るくなっていく。
＠
アスファルトが強い日差しで白く見える。切り落とされた生首のように、土の塊が、
路上にぶちまけられる。しめっている。こうばしいにおいがする。土がうごめく。日
差しに炙り出され、虫が湧き出す。うごめく。赤蟻、ヒメクリ、地蜘蛛、トム、ムカ
デ、白蚯蚓、得体の知れない生き物。わらわらと、殺すを知らずに殺す物。産むを知
らずに、産む物。それらが、わらわらと、魚を知らずに、魚の形をつかさどる。土に
まみれた赤黒い魚。ひくひくと白昼のアスファルトにさらされ、脈打つ。静脈。動
脈。切れた動脈。毒打つ。行き場をなくした血。行き場のいらない血。赤から黒への
移行。心臓から路上へ。喉仏が、鳴り、鍵がかかったように止まる。雨をはらんだ
女。子供のように体温が高い。褐色の太ももに叩き潰された蚊。赤が落とした黒い衣
魚。オレンジのペティキュアとマニキュアで縁取られた女。耳に絡みつく唾液。下半
身に来る音。路上から心臓へ。掘り起こされた土管。大気中に鳴る、えら。最初の一
滴はスローモーションで、大粒の。あとはよみがえりの機銃掃射のように、魚は水の
中では生臭くない。