舟をこぐ 　　　　--for sleeping crocodiles

樋口えみこ

ゆるやかな

濁った流れに

丸太を一本浮かべ

またいで足で

きっく

きっく

向かっていく

忘れていた

いつかいた場所の

ヒント

もう少し

キツク

眼を

（開けてはいけないよ）

熱帯の樹の

肌の

ヒント

雨のなめす音

どこまで　きた

口あけて待ってた鰐に

パックリ

右足を食われ

ああいい気持ち

軽く

なってく

軽く

渡っていける

そこは

（ずっと遠いから）

鰐がおいしいおいしいって

腿のほうまで

むしゃぶりついてきて

私の右足はすっかり

鰐がぶらさがっちゃってて

きっく

きっく

するたびに　肝心な

ところを鰐の鼻先が

突いてくるんだよ

カッコイイ

雨の日母さん迎えが来なくても

カッコイイ

すぐにたどりついてしまう

四方の壁を軽く

突破

向かっていく

ときに激しく

水を蹴って

腿の付け根が痛くって

鰐は鰐でどうしていいか

わかんなくってさ

口あいたまま

のどちんこがビリビリだって

メルヘンだね

（まだだよ）

詩集「なにか理由がなければ立っていられないのはなぜなんだろう」に収録
もう少し
キツク

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