★penteka guest
Heart in BERLIN
北爪満喜
まるで森のつづきのような
夕暮れの ダリアの咲く庭に
異国の私たちをまねくと
その人は 蝋燭に焔を灯した
ほほえみながら ゲルマンの男の人の声に
こたえる ともだちの異国語が
わからない
まぶしく 意味から隔てられ
言葉から逸れ
わたしだけの
ベルリンの庭が
夜になる
蝋燭の灯りがダリアの襞の
かさなる花びらをふかくして
もっと
ふかくしてふかくして
森で
わたしの焔がひらく
心臓から
血まみれのハトをとりだし
拭いている
白いハトだった
あたたかい声で鳴くハトだった
拭いていると 羽根の先が
のばした腕の素肌を こすり
赤いぎざぎざの線を刻んだ
それが わたしの日々だとわかる
いくつもの日々をしっているハト
跪いて
服を脱ぎ
頬や首すじや胸のあたりで
素肌でハトをぬぐっていると
ゆるやかに鉄のような匂いが
跪いた土から 膝へ
素肌のわたしへ 移ってきて
かすかな響きがからだの奧へ
つたわってきた
目を 閉じた
まぶたに赤く
日溜まりの 鐘の音の震えが 響きだす
鐘の響きが触れてゆく
囲む森へ触れてゆく
（陽をうけて梢がゆれだした
まるで 白い骨から分かれて
うまれたような白い羽根
白い羽根が風をうけ
翼を覆い やわらかく けぶるような羽毛をつくった
白い 骨でできているハト
（明るみ 草地もゆれだした
わたしの
窪みでつくられたハト
陽をうけて 森が真昼のように 明るくふくらみ
鳴っていた
（わたしとハトの森が鳴る
蝋燭の
焔が燃え上がり
焦げるような匂いをたてて
夜の庭を熱くてらすと
わたしは 庭に ハトといた
抱きしめていた
ハトをはなして
胸から指にとまらせて
そっと腕をあげながら
指で ハトを 高くかかげた
汚れている指の
汚れが乾いて
指に
ハトの鼓動がつたわる
繰りかえす
ハトの鼓動の熱が
かかげた指から降ってきた
分けられた液体がガラスにゆれる
ともだちが
緑のカケラを分けている
男の人がゲルマンの
庭に生えたものを摘む
鐘の音が鳴っている