10月のピッカイチ！
シロイヤマイ ゆきよ
まるで片足を無くしたように、僕は地面に倒れる。雨が降る。 鳥の鳴き声や虫のざわめきが、 いつもと違って思えるのは気のせいだろうか。 近付いてくる足音がやけに優しかったり、誰かの怒号が遠くに聞こえるのも。 陽射しには手を翳し、 風の中では肩を抱えて、僕の言葉は次の言葉へと。紡がれる。
タン、タン、タン、と、遮断機は震えていた。 その下では黄色い顔の人々が、 不思議なことにほぼ同じ、たった一つのことだけを想像している。 だから小指の爪の先から少しずつこぼれ落ちるそれが、 いまや線路を真っ赤に染めていても、気に留めるものもいない。
幽霊の話なら信じられる？ たとえば、生まれ変わりや、それによく似た物語を。
完熟トマトは嫌い。甘すぎる。どちらかといえばまだ青い実のほうが トマトを食べているような気持ちになれる。でもどちらにしてもこんな 季節だからジュースで我慢しているんだ。それで気分を味わったり、 健康にでもなったつもりでいられるんだ。
油性マジックで固められた指。 下衆なプリントのブラウス。身を捩って隠そうとしたものはなに？
想いや、 想いを呼びかけて、応えを夢想しながら日は暮れて。忘れた頃に思い出す。 無邪気に仕掛けられた落とし穴に嵌るのは、いつの時代も酩酊とした詩人ばかりだ。 物欲しげに爪を立てれば、他人の背中を傷つける。 短気な死ニ神たちが、寄り添ってひそひそ話をしているよ。線路の真ん中で。 立ち止まって耳を澄ませば、 その声も、時々こぼれる笑い声も聞こえるのに。まるで台無し。
グラジオラスの花束に、マシンガンを忍ばせる女の子は片手で脇差しを握りしめていた。 案の定、 蜂の巣にされて天国だか地獄だかを訪れる羽目になるのだが、 そこでもやっぱり温もりもない言葉だけが急かされて、サイコロも振らずにふりだしへ。
（堕落した神様は社会を認めようとはしない。）
十六歳の女の子はグラジオラスの花束など抱えてはいなかった。 その手はいつも駅ビルのビニールバックでふさがれて、 勿論、マシンガンも脇差しも黄金銃すら忍ばせてはいない。 つまり、 誰も天国だか地獄だかへ放り込まれずに済んだわけで、 その十字路にあるウナギ屋のポリタンクの前ですれ違っただけなのだ。 神様は僕だけにマシンガンを授けてくれる。 そして昨日よりもずっと静かに、轍は回り続ける。
「私、嘘好き。 嘘吸って、嘘吐いて生きる。 その分たくさん食べましょう。」
起きあがる。たった一つの世界に。朝がくる。 マエストロ。マエストロたちへ。 青い空。緑のトマト。 黄色いドクロ。 黒い弾丸。 シロイヤマイ。
十月になったなら、枯れたヒマワリ畑であいましょう。 きっとだよ。
雨が降っても、そうでなくても。