マイナスなことは、その時はつらいですよ。だけど長い目で振り返ってみると、そういうものの方が実はプラスだったんじゃないかって思うことが、結構ある。それで僕は、プラスのカードをそろえようという気がなくなりました。
むしろ積極的に求めていくとロクなことはないように思う。
「自分の人生は、自分の手には負えない」という思いがあります。
人生の岐路みたいなときも、激しく悩んで選んでいくっていうのではなく、耳を澄まして、体が自然に動いた方に進んでいきたいという感じがするんです。

　−いつごろから、そうした思いを深くされたんですか。

四十代くらいからですね。自分の限界がわかってくるでしょう。
その限界をたどっていくと、「自分の輪郭」が見えてくる。できない、ってことがあることで、できることにフォーカスが合ってくる。そこに可能性がひらけてくる。限界に敏感でないと、本来は断念すべきものも追いかけてしまう。

自分の限界の中で何ができるかを考えることが、リアルなわけです。そうすると方向が絞られる。


−−by 山田太一（1998.9.25 朝日新聞夕刊）






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