浅川にて

山本かずこ

　鳥の名前を教えてやりたかったな、と根本さんは言う。雁や鴨や雀やそのほか何種

類もの鳥たちが、八王子浅川の河原には棲息しているようだ。

　それにしても、瀬沼孝彰は鳥を鳥としか書かなかったな。また、根本さんが言う。

根本さんはいろんな鳥の名前を知っている。

　鳥たちから見れば私たち人間はすべて人間としか見えないだろう。だれかれ構わず

人間が近づけば、鳥たちはさっと逃げて行く。鳥が私たちをおしなべて人間としてし

か認識しないように、瀬沼さんも鳥はただ鳥としか認識しなかったのかもしれない。

その方法で生きてきたし、詩を書いてきた人だった、ように思えてくる。鳥や草花と

同じ目線を持つ人だったのだ。

　その目で彼はいつでもどこでも世界を素手で掴みとった。しかも、正確に。そんな

ことを思いながら、浅川の土手を歩いた。

　秋の一日がすっかり暮れてしまうまでには、まだしばらくある。風が少し出てきた

ね、駅までの道をそう言いながらゆっくりと歩いた。