引用詩・人形町
山口眞理子
(注1)
銭のこぼれる壮絶な道そのなかを
わたし わたしという女乞食も
馬のようなものをひき
歩いていく―
と美人の詩人は「馬喰町」を書く
ブルド−ザ−になってよく働き おのずと拡
いた文の道を胆力と情熱で歩いていく人たちあって
のそのうしろを とぼとぼよそ見しながら
往く私 もらい上手の拾い上手 かろうじて
捨てられてあった一本の釘をかなめに 糸を
よりよった糸はまだらまだらの袋となるか
この袋に何を入れるのでしょう
仕事は盗め！と祖母の低音が がしかし
盗人にはなるまいなあ
天の恵みはみなにあることとして 慈雨アリ
出遅れたおんなの仕事は便所そうじそのまま
ていねいていねいに汚くて臭いが職業しごく
水の上動物園の物語は瓜をともして油を買う
犯罪のうしろにおんなあり 系図を描けば
ばらばらと子供と性愛の構図 月満ちて開門
食わせていくのが訳 のないことではない
たどりつくのはどこぞの街 家でなくても
あ！そこで一滴だけでも酒があれば
酔えるものあり神のおそばにたどりつくの
火を吹くのは体温のせいではない
火事と喧嘩はつきものでやくざは心のありよ
で職業したらささくれる たった一人により
そって救ってあげるいのちと詩心 掬えるか
(注2)
ところで 詩はなぜ一行で止まるのかふところとかいなを結ぶ 未知はつねに筋肉痛
地図が読めずに
よれよれと息もつけずにゼ−ゼ−と ひとと
かたちはにくばなれ
ひとはかたちに はやくなれ！
１※引用は小池昌代
「馬喰という名の土地で」
ミニヨン ロス０１号
２※引用は佐々木幹郎
「ああ、われ溺れたるかな」
ミッドナイト・プレス創刊号