地球岬

斎藤マキ

あなたのお父さんが生まれ育った町

真冬の室蘭から

地球岬を目指した

その岬に立てば

地球のまあるさを実感するという

岬へ向かう路線バスの

終点に降り立つと

ゆるやかな

坂道が続いていて

　室蘭はアイヌ語で

　“モ・ルエラン”　ゆるやかな坂を下る道−−−−

　そんな意味を持つという

岬へ続く　ゆるやかな坂を

ふたり

歩いた

太陽を浴びる根雪の純白が目に痛くて

透明すぎる空気が鼻先に痛くて

あなたとわたしの吐息が

“モ・ルエラン”の土にこぼれてゆく

たくさん　たくさん　こぼれてゆく

こぼれて　重なってゆく

微かな　土となってゆく

車窓を過ぎていった町並を

やがてはるか眼下に遠ざけると

地球岬にたどり着いた

観光客が二組ほどに

ひっそりとしたみやげ物屋

そして

溶けかかる雪の上を這う

大きく黒いシミは　カラスだ

「地球岬のカラスだね」とわたしが言うと

「地球岬とカラスだよ」とあなたは言った

そんな　言葉を　ひとことくらい

交わしたような気がするのだけれど…

地球岬で

まあるい地球の地軸となった

あなたとわたしは

ふたり　汚れながら　いったい

幾千回の自転を繰り返すのだろう

容赦なく照りつける太陽を

いったい

いつまで

遠く眺めて生きてゆくのだろう