にしむらくん

奥野祐子

おゆうぎの時間にはいつも

真っ先に私をみつけてとびかかる　

シャンプーの空きボトルで私の頭を叩いたり

ダンスのときは小突いたり

かばんを隠したり　トイレに閉じこめたり

にしむらくんはいつも

半分笑うような怒るような

そんなカオして私を襲う

──怖いよ　怖いよ

私の気持ちはただそれだけ

にしむらくんがバッタをくれた

大きなトノサマバッタだ

−−ちょっと気味わるいカオしてる

ママが

「ありがとう」っていいなさい

といった　−−でもこんなの欲しくない

バッタはそれから二日もしないうちに死んだ

電話でママがにしむらくんのママと話してる

「にしむらくん、引っ越すんだって

　もう幼稚園に　来ないんだって」

私は電話でにしむらくんと話した

でも　もう覚えてない　なにも

ただ　ママにこづかれてにらまれた

「バッタはね、死んだって言わないのよ！

　『元気で生きてるよ、ありがとう』

　って言いなさい！」

私はおうむみたいにそう言った

ママは感心したように言う

「にしむらくんっていい子だったね

　あんなバッタなんかくれて

　きっと　ゆうこのことが好きだったのよ」

−−私はそうは思わない

にしむらくんはいつも

半分笑うような怒るような

そんなカオして私を襲う

−−怖いよ　怖いよ　怖かった

私の気持ちはただそれだけ