パイナップルの匂いがすると
わたしの液体に口をつけた人が言う
コーヒーじゃなくて
パイナップルジュースを飲んでおいて
よかったなと思う間もなくわたしは
がまんできなくなってしまう
わたしのなかを移動した液体が
あなたのなかを移動していく工程に
驚きを隠せないわたしはまだ
うぶな娘だろうか
ふるえている
ふるえて
がまんできなくなってしまう
ふるえている
ふるえているあなたの指先が
グラスからこぼしてしまった液体を
思い出してしまう
こぼれて
ガラスのテーブルをみるみる浸していった
あなたの液体
汚されるのを待っている
炎天下の麦のような犯しがたさに
ふるえて
ふるえて
パイナップルの匂いのうつったそのくちびるに
飲みほされてしまう
恥
恥知らずと、いっそ
ののしられていれば
せいせいした裸で
フラッシュライト
あびて走って
裸で大またで
手のひらなんかで隠さないで
あなたとわたし
こどもを産んで
カツラを外して
平気で
いられたかも、しれないのに
あの日
新型インフルエンザ脅威
はなは はなみず
垂れている
はなは はなは
顔のまんなかにある
はなは あごに
あったらおどろく
はなは いそぎ
あごマスク
おいしい匂い嗅げません
胃臭にオエッともなりません
鼻水どこから
出てくるのだろう
はなは はなは
みみ！
みみマスク
みみは みみは
はなじゃない あーあさむすぎる冬
待ち遠しいひとの匂いも
聞こえてきません
インフルエンザ猛威
顔さすり鼻の記憶をたどる冬
キスを誘ったいちご鼻
息のはずんだトナカイ鼻
カナヘビ顔だす鼻の穴
ふたりが最初にくっつくところ
はなは はなは
顔のまんなかにあったとか
子孫に向けて書いておこう
ホチキスね
ホチキスね
いる時まで放ったらかし
クリップとか
のりとかね
画鋲とか
巻き尺なんて
大活躍のときを過ぎ
すやすや眠ってる
引き出しのなかで
おしりとあたまを
くっつけあって
出入りの多い
オレンジばさみに
嫉妬を微量
覚えぬでもないけれど
ふゆですし
すやすや眠る
修正ペンに寄り添って
ロックコンサートで
揺れるゆめ見て
すやすや
カチッカチッ
握り心地の
いいわたしよ
すやすや
カチッカチッ
歯軋りです
たましい and so on
わたしはあんまりこころが弱かったので
くるいたくて
傷口をひらいたのよ
じらじらした裂傷に吸いこまれるのが
ぬるまゆくて
刃物を口にふくんだのよ
のみこむと乳房が切りひらかれて鮮烈
弾きとばされて何かが見えたかったけど
押さえつけている目が見えて
前髪が刺さってなんどもまたたいている
音が聴こえたもっと痛くしていいのに
くるえないのはわたしだけじゃなくて
その頭を抱きこんでしまったのよ
ライラライ
カメラカメラカメラ（ぱくりだよ）
撮るカメラ?
撮られるカメラ?
カメラは何も考えたくない
秋だから陽が短いのと同じぐあい
オリンパスOM-2を
売ってあげたよ
写真を撮るのがすきだった人に
きこきこって
フィルムは手で巻き上げる
2万の約束だったのに1万しか
もらってないよ
標準レンズあげたよ
85mmもあげたよ
でも
写真を撮ってくれてるならいいよ
24mmマクロもあげたよ
すごくいいレンズだったよ
カメラのレンズを通すと
このたいらな世界に自分がくわわる
おうとつの手ざわりがみえる
望遠レンズも
お空を写すフィルターも
あげる
飛行機雲を描かせる昼間には
銀の粒子が融けているよ
斜めにかしげた君の首
猫の髭みたいにのびた指先から響いた
カシャンという手動の頼りない
シャッター音
そのとき切り替わった時間から
あるきだして
現像しなかった
何本ものフィルム
打ち投げて壊した君のカメラ
ごめんね
カメラは何も考えたくない
写真を撮っているならいいな
デジタル、
とりなおしがきいて便利だよ
もう思い出は染みつかないで
そうして薄いひとになるよ
せつないよ
せつないよ
目がさめると
あの子の日記が削除されていた
昨夜書きこんだ私のコメントごと
せつないな
サイトはあっけなく閉鎖される
いつもあの子を気にかけていた
でもネットだけのこと
なかったことにできるから
じゆう
ゆめのなかで
前に進めないで後ろ向きに転がった
私をみてみぬふりの広いそら
父ちゃんが
倒れて入院先に向かっていると
ケータイ電話のコイビトらしき人の声
泣きそうで
目が覚めた
死ぬわけじゃないよ
でもいつかは死ぬんだ
どうしようと妹が
今もベッドで泣いたまま
わたしは
ホットケーキが食べたくなる
見知らぬ人へ書き込んだ
日暮れまでいいてんき
「お金」
ン十万あれば食べていけるだろ
ン十万出してるんだからコストを考えろ
さらに年収ン百万になるはずだ
ゴマをすって愛想をふりまけ
おまえたち食べさせてやってるんだから
父さんを大切にしなさい
おまえたちのために働いてるんだから
こんなにつらい思いをしてるんだから
年収がン千万になると
このようなやりとりはなくなり
蟹メシ弁当の赤い蟹の形をした弁当箱を
アタッシュケースにしまいこんで
改札口でにっこり ほほえみあえるらしい
赤い蟹の形をした弁当箱に
とれたばかりの新米をつめて
すこし肌寒くなった林で昼さがり
塩むすびが一番うまいと時給900円の恋人が
わたしのおしりをなでている
「労働」、ですか
労働、ですか？
ようこそ！
ようこそ！献血車。まぶしい朝陽をはねかえすよボンネット
足らないのはＡ型とＯ型と至急15人分
すぐ！使います！
メガホンで オハヨー
まいあさ、この車のなかで抜かれた私の血液が他人のからだの
管の中をきゅうくつそうにかけめぐる様子を思い描きながら
ティッシュ配りのねぇちゃんにぃちゃんから１個か２個か
橋の上でティッシュを受け取る ３個はとらない 理由はない
配っても配り終わらないティッシュまいあさうまれてくる子供
５万借りて３万返すか400抜いて牛乳飲むか
びーじーえむはマイアヒで エイベックスバッシング朝のnews
あはー 熱心です すぐ！必要！血が足りない！血流が
低いの 朝は がっくり首おとす全身顔までカーキ色おじさん
たち 裏地は一万円札のパッチワークでできています嘘虚脱
まいあさ 橋を渡って。人ごみのむこうの空間をみてから
はっ。左へまがって それから どーってこともないんだよ
メガホンで 直進
「愛とか恋とか」いう宿題をいただいて。
愛とか恋とか？
よくわかんないや。あたし、
カレシのやわらかいところ、ぜんぶ舐める。股と股のあいだとか
脇の下のツンと臭うところとかでっぱってきたお腹とかおヘソの
中、お尻の穴、くちん中、ほっぺ、目の玉、睫毛と眉毛と鼻の穴
の中の膿んでるところも足の指も手のひらも。唾液でべとべとに
なめしていくと近づくように感じられる相手とあたしの違う中身。
「あたしのこと、すき？」
「キ・ラ・イ」
そう言うカレシも、あたしの哀しいところをさんざん舐めて。イヤ
だと言っても舐めたくてあたしを壊すまで舐めたいらしく生理だ
と残念そう。それが、愛とか恋とか、わかんないけど。いろんな
かっこうをして五百何十何回目？ ひとここちつくと 大きな音で
テレビ見て、笑っているの。
「やっぱ、すきなんじゃーん？」
「キ・ラ・イ！」 でも、
「すきじゃない人のケツの穴なんか入れらんないだろ。汚くて」
と言う。 そういうとき、ちょっとだけ、感じるかな。
ごめんね
「自由って？」なんていう宿題をひきうけて。
投票にイカナケレバ。 雷はひどく発光し、雷はとても自由。
なにか、気の利いたことを書かなければ と思う時点ですでに囚われている。
きのう 知ったことを書こう。彩乃ちゃんが「詩」を書いていると言ったこと。
さえたブルーのマイクロミニに、胸元の大きくひらいた豹柄ブラウス。去年の夏、一緒にナース服を着てコスプレ占い師をやってた頃より5キロ痩せて大人顔になった。パンツが見えそうな彩乃ちゃん。
「大丈夫デス。キュロットだから。キャロット？ えーと、アイルランドって、どこですかー。」
アイリッシュカフェバー（たぶんそんな店）でパスタを口につめこんでいた私、すぐに答えられなかった。
「大丈夫デス。彩乃、わかんないから。」
かなり恥ずかしかった。でも、彩乃ちゃんの私を見つめる目は変わらない。
「古典ってどうやって勉強すればいいですかー」。
大検を受ける彩乃ちゃん。受けろと勧めたのは、アイルランドも答えられない私で。トイレに立ったすきに、彩乃ちゃんがお勘定を済ませてしまっていて、「彩乃、こんどはお好み焼き食べたいでーす♪」って、彼女は夜のお仕事へ出かけていった。青いミニから突き出しているモモ肉が、たくましいな。
「大学へ行くのもいいかな」と言っていた。占いよりもカウンセリングの勉強をしてみたいと。それから、今、43歳の人とケータイで「詩」の交換をしていると言った。その瞬間にも、相手からの「詩」が、テーブルに置かれた電話機をピコピコッと、紫の光で揺らしていた。
「詩はいいですよね。ほんとの自分になれる。」
メールが届いた。
「今日はヒグチ先生も詩が好きな事を知れて嬉しいです。ヒグチ先生が書いた
詩いつか読んでみたいです… でも私も人に見せるの恥ずかしいし。
プライベートのお付き合いしている人には余計見せられないですよね。
明るい詩も暗い詩も自分自身だから…
心の中を見られるのは恥ずかしいです」
心の中か。
初めて買ったワープロの画面に卑猥な言葉を変換しているだけで弾けるような自由を感じていられた時があったな。詩だと言えばなんでも書けた。たくさん心を、出した。心、だったかな。
今、濡れた道路の表面を、タイヤの溝が絡めてしゅうっっというなめらかな音を延ばしていきます。わたしの部屋は、交通量の多い通りに面しているのです。闇の中に目を覚ました時には耳をすませば、タイヤの音の間断の具合で今、何時頃かわかります。ざわめきは、でも、耳の外とは違う部位にはぐくまれているみたいだ。皮膚の裏とか。水のたまっているところ。
「両手の薬指に指輪をしている女」という宿題をいただいて。
じわじわ汗をかくのなら 水を浴びるように汗まみれになりたい、 と
考える。肉体的なことも 常に頭の中で考える。彼女はいつも考えて
ばかりいて、３分前に歯を磨いたのかどうかを 忘れてしまう。
歯ブラシの刺激は微かなものだから。 それにもう彼女は年だから。
強い痛みの刺激なら覚えていられるぐらいの年。 まだ肉体を酷使
できる。 こころを支えるために。
傷つけるほど肉体を拘束されるのがすき。彼女を体力でねじ伏せる
相手がくれた華奢な指輪を左手に。そして彼女を一番に拘束する人
−彼女自身−が与えた誕生石の指輪を右手に。出かける前に必ず
薬指に装着する。だからいつでも、こころは自由。
「なぜ 両手の薬指に指輪をしているの」 と、あなたから指摘されて
はじめて気づいたように、両の手の甲を眺めた。 さみしいのかな？
ぽかん。 考えたことはなかったんだけど。
TOP PAGE