penteka guest☆
『雨の日』 Ｔ．Ｍ（宮田 直）
ひどい雨だ
今頃地下道は水に浸かり
その入口では肺活量に自信のある者達が並び
潜水競争が始まるところだろう
昔、シナイ山にスキーに行くと言っていた男がいたが
シナイ山でも今雨が降っているのだろうか
だがそれを確かめるには地球は広すぎる
ブラウン管の中では武田鉄矢が唄っている
どんな人間でも発作的に
血だとか肉だとか魂の話をしたくなるのだ
だが永遠に続く会話はこの世にはない
雨が降っていると
「雨自体には音はないのよ」と言う女性と
昔付き合っていた
彼女は毎晩ファーストフードの店員マニュアル本を読みながら
「どんな規則も経験の積み重ねなのよ」といつも言っていた
こんな日は彼女の言葉の意味がわかるような気がする
そういえば
「まるで堀内孝雄になったような気分だ」と言い残し
長い旅に出た友人はどこへ行ったのだろう
こういう日は
そんな気分について考えるのがいいのだろうか
ひどい雨だ
ところで
この地上には穴のあいた傘が
一体何本あるのだろうか
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『晴れた日にはいつも』
テノール歌手が唄っていた
「私は弱音を吐いているのではない」と
＊
「まるで世界は日干しにされた白いパンツです
洗濯洗剤のＣＭには
抜けるような青空と脂肪の塊のような雲が似合います
子供達は泥水を捜します
服を汚して母親を困らせるために
ですが衣服は放っておいても汚れるものなのです」
「乾いています
快晴です
マッチが自然発火するような天候を
人間はその一生のうち一度は願います
ですが後から思い出すのです
自分が持っているのは電子ライターであることを」
「自動洗濯機ではなく
自動乾燥機こそが
人類の三大発明の一つでした
残りの二つを覚える必要はありません
ドラムの中を転がっていくうちに乾いてしまうという事実は
太陽にとっては不愉快なことでしょうが
全ての脂汗をかく人間にとっては吉報でした
脂はなかなか乾くことがないからです」
「いい天気です
青空と白い雲が似合います
ですが世界は日干しにされた白いパンツです
陰干しにしてくれと言うのではありません
今の私はパンツを履いていないのです」
＊
ソプラノ歌手が唄っていた
「私は弱音を吐いているのではない」と