暗闇にポカリと浮かぶ屋台の光 　二人の足音が重なり交叉しながら聞こえる 　微かな風で君との距離を計り 　黒い夜を歩いている 　二人どこかとても似ている 　惹かれるものに抗えない好奇心の強さ 　残酷でやさしい 　同じ匂いがする 　屋台の主人の顔は見えず 　点された光は手元だけを照らし 　隣の君の顔も見えない 　肘をつくのがやっとなカウンターと主人の間には 　青色の水が広がっている 　水面に丹塗りの椀が二つ 　今にも沈んでしまいそうなバランスで 　椀は青い水に辛うじて浮かび 　暗闇で満たされている 　主人はヘラで水をひと掻き 　水の中にうっすらとたゆたう文字が見えた 　二対の箸はそれぞれに何かを掴み 　椀にいれる 　餌 　　居なくなった 　　開店休業 　　平たい水飴　 　　包み 　　生温い風で 　　週末 　　抱擁を 　椀の暗闇に掴んだ言葉を放して行くと 　満たされた暗闇が閉じ、朱の光を放ちはじめる 　椀の中で言葉はゆるく回遊する 　左手を水に差し入れ椀を持つ 　するりと咽を通りすぎる無味無臭の液体 　味を感じられないことに疑問も持たない 　屋台の主人がまた、ヘラで水をひと掻き 　隣の君があからさまにこちらをみる 　主人の視線もこちらを向く 　何をみているのだろう 　隣の君の顔が見えないけれど 　その右手が獣の手になっていた 　毛に覆われた爪が 　見た目通りの凶暴さで襲って来る 　闇に解けはじめた外形が剥ぎ取られ 　闇で満たされた躰は 　輪郭が頼りなくなる 　加速する思考は奇妙なリズムを刻み 　耳を塞ぐことも出来ず 　目を瞑る 　抱き込まれ、剥き出しの背中に爪が這う 　屋台もすっかりカタチを解いて 　青い水が其処らじゅうを満たしている 　キモチいい 　外形を捨てれば 　こんなにもぴったりと触れられるねえ 　屋台の主人が絶え間なくヘラで水を掻きはじめ 　暗闇にポカリと浮かぶ屋台の光が 　ゆらゆら流れるように浮遊しはじめた