Ｕ.Ｋ. 　剃刀を当てると 　町内の何処かで、こどもが夜泣きする。 　暗闇の急カーブに 　光るミラーの向こうで 　死んだ愛犬が 　赤いポロシャツを顎の下に載せ 　気持ちよさそうに此方を見ている 　丸いフレームの区切られた向こう岸 　四角い写真の左から右下に引かれた線の斜め上から 　いまにも起きあがりそうに 　蒼いリーバイスのデニム５０１の上に乗っているのが好きだった 　滅多に吠えない鳴かない毛並みの良いヨークシャー・テリアの帰る処は 　グリーンの深い英国の牧羊地帯。 　保健所に指定された死場処へ向かう黄色い車に小さく手を振ったとき 　見上げた空は、澄みきっていたと 　母は爽やかに答え、僕らが「そうだったねえ」と頷いている間に 　もう、泣いている子供のいる家の事を話している 　緩くなった涙を滲ませながら。 　僕は思い出したように聴きたくなった 　ブリット・ポップのＣＤを買いに２４時まで開いてる中古盤屋まで 　自転車を走らせている 　剃刀負けした肌に当たったポロシャツが赤く滲みる 　急カーブに光るミラーの向こう側で 　銀盤がブリテイッシュポップスを奏でながら 　この車輪みたいに廻ってる気がする　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　 　霧深いあのＵ.Ｋ.の空が　一瞬、煌めくように。 　-dormin