ちゆ力 樋口えみこ
気づくと午後になり 台風６号上陸にともなう雨が 渋谷公園通りを叩きはじめていて
気づくと熱いだるさが 背骨から抜けていた 刺されたようなノドの痛みも うすらいで
髪の毛をさかまきだてる なまるい風も カイテキ だ
放っておいても 回復する力を 私のからだは今まだ持っているのだと知る
アリガトウ。
と 暗やみの中できのう深夜 ケータイメールを送ったキオク
いつか 咳がとまらず眠れない夜 おれに向かって咳をしろと 抱き寄せてくれた人を思い出して
それは父ではない人で
熱に皮をはがされて 原始的になった私のからだが その子の愛情を と そう呼んでいいのなら 覚えていると私に言った
いつか私は 聞きたい言葉を求め 紙に書いたり頭で納得できる愛情について
わかんないよ その子はよくそう言ったじゃない
いつか風が強まり ゆるい坂道を前のめりの角度で いろんなスタイルの人たちが 傘をかざして平行に進んでいく姿は
人ってそんな複雑なもの？？？？？ って クェッションマークの連打みたい
自然治癒力が じぶんをいやす力なら もっと別の 進化したらしい人間の 他人へ及ぶ能力がないのかと 考えるのだけれど 適当な名前が思いつかない
烈しい風雨 でも今夜がピークで 明日の朝には北陸沖へ嵐は抜けて いってしまうの