部屋

高岡　力

暗いね　と妻が云った

暗い・・ね・っ・・・　とおれは云った

立ち上がり紐を探したが

闇ばかりが手に喰らいついて

ぶら下がってるものがつかめない

パパ・・　と子が云った

すると　ぱっと　ついた

見当違いもいい所だった

おれは部屋の隅っこにいて

何を掴もうとしていたのだろう

妻は真ん中につっ立っていて

化物を視るようにおれを視てる

おれが　正座してる

何も背負うもの等ないのに背をぐっと前に倒して

おれはぐっと両手を石のように堅くしてる

暗い所でなにしてたの

暗い所でなにしてたんだろうかおれは

バカね　と妻が云た

バカだね　とおれは云った

おれは　立ち上がり　真ん中へ　いき

天から　ぶらさがってる　ものを

引っぱり　また　全部を　闇にした

また　全部を　闇にした　おれが　また　正座を　している

おれはぐっと背を前に倒して

おれはぐっと両手を石のように堅くしてる

隅っこにいる俺を

隅っこから　二人して

視ている俺の妻子よ　おとうさんは　なにをしているのでしょう

パパ・・　と子が云った

あんた・・　と妻が云った

おれは立ち上がり紐を探したが

そうだ　君たちも　仲間に入りなさい

三人で正座をしようじゃないか

眼をつぶり　息を殺そう

そして　とうさんが　なにをしていたのかを

一緒に考えてくれないだろうか

そうね　と妻が云った

いいよ　と子が云った