青空 樋口えみこ
わかい男とやれてうれしいだろと どろぴーはなんども言うけど わかければ誰でもいいわけジャないよ わかってるよと どろぴーは面倒そうに答えるけど ほんとにわかってンの
どろぴーってわかいだけが取り得なヤツなわけ？
そうだよ。 他に取り得なんかないだろ
チガウって言ってあげる チガウって言ってほしそうだから そういうところがチガウから ねぇさわってオレ、オーブンみたいだと 目を丸くしている
やっと合わせた休日に コイビトは39℃の熱をだしてしまい 好きなコーラの味もわからないのに 約束したとおりデートを敢行すると言う
そんなふうにギリギリ我慢して なにか自分を追い詰めないと怠けほうけて絶望的にだめに なってしまうことをおそれるように仕事をしている そんなふうにして家庭を顧みる余裕のなかったお父さんを どろぴーの中に見ることがあるよそして明け方まで夢中で ビデオを見ているわたしを「怒るよ！」と唯一しかる人 だからどろぴーはわたしのお母さんで そうあなたとすると 母体のようなうねりにまきこまれる そしてあなたはわたしを いじめた小学校の悪ガキで それで不思議と傷つきやすい 体の大きな弟で、お姉さんだ！ブランドのバッグを貸してくれて えみこもっと気をつけなさいニシさんに負けるなと忠告する アバウトなわたしと気性の激しい妹そしてあなたは人なつこい 笑顔の幼なじみで海沿いのバス停でからだをさわりあった はじめての恋人 火傷しそうに熱い体を横たえて 道玄坂のホテルで目を半分開けたまま眠るいつもそうだ 今日は黒目まで見せて眠っているあなたの時間をさかのぼり わたしは老いて産み落としたあなたは他人の子供でわたしの子 わたしの股から体に入って胸から抜け出て生まれかわる
抱きついてこいよ。 眠っているはずのどろぴーが言う
あとどれぐらい、 ねぇ いきるんだろう
あなたの抜け出した空洞にさえわたるだろう すがすがしい哀しみを青空のようにみている