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プール /higuchi emiko
   
   
   
秋になり
私はまたプールを見ていた
光線を撹拌する
うつくしい硬い水
    
飛び込み台は低いのだけれど
見ているばかり
    
飛べば水の奥に
見えなかった場所が見えるのかもしれないと
目を凝らして
指を伸ばして
水面に叩かれる感触を想像して
何度もまばたきをした
     
陽が傾いてきて
肩をつつむ毛布の感触に
力が抜ける
      
ふり返ると
コイビトが見たこともない苦しい顔で
コートを広げて立っていた
      
寒くても自分の着ているものを脱いで
カノジョのためにがまんするのが
これまでのコイビトのやり方だったが
    
くたくたになるまで働いて
高揚感は持続することがむずかしく
コイビトももうどうにもならないのだ
     
かまわずに、行っていいから
     
そう告げるきっかけを探そうとして
湧き起こった感情のあわ立ちに打たれる
    
玉のように弾かれて
コイビトの胸の中へはいると
役割を果たして両腕をつよくしめる
彼のからだの筋肉が戸惑いを伝える
ゆがんだ顔がうつくしくて
心を奪われてしまう
くちびるを奪ってしまう
両手をからめとってしまう
自由を失われてしまう
視野を消してしまう
知らない場所の夢ばかりみてた
思考を止められてしまう
スキマが生まれないように拘束しあい
眼をいっしょうけんめい閉じていたが
静けさの闇に
硬い水の光の点がいつまでも・・・
コイビトが言う
      
しっ!
黙って








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