投稿作品寝物語
烏耶未代乃
遠くでちゃるめら鳴ってるわ
ちゃららーらら ちゃららららら
私な ちゃるめらの音 嫌いやねん
ちゃららーらら ちゃららららら
まではいいんやけど
小さい頃住んでたところの辺りを
周ってたちゃるめらにはその続きがあって
旋律を変えてゆっくり吹くんやけど
それがものがなしいて胸の底の方がちりちりするねん
赤ん坊の頃から嫌いやったみたいで
あの音聞いたら泣いてたらしいわ
その頃住んでたのは公営の団地で
安い家賃に引き寄せられた人ばっかりが住んでたことや
その団地の川隔てて向こうは
いわゆる昔からの貧しい町やったことは
みんな後から聞いたことで
やたら子だくさんのうちがあったり日本刀振り回すおっさんがおったり
友達のお兄ちゃんがヤンキーやったり同級生にお父さんがいてなかったり
その同級生のお母さんと別居してるお父さんがぐるになって
うちの両親だましてお金とったりしたことも
三度のごはんみたいに当たり前にお腹に入ってたわ
中学のガラス叩き割ってるのは
たいていうちの団地か川の向こうの町の子やったらしいけど
私は小さかったから絡まれたりしたわけでもないし
うちが貧乏やったことも知らんかったし
でもな
決して懐かしい帰りたい故郷でもないわ
七歳でのんびりした田舎に引越したときは
ほんまに心の底からほっとしたわ
友達やと思ってる子から
「お姉ちゃんしゃべられへんねんから
あんたもあほやろ」とか言われることもないし
いたずらの通報で毎日のように火事のサイレン鳴ってることもないし
あんまり思い出したくないみたいで
夢にも出てけえへんけど
あのちゃるめら聞いたら思い出すねん
あの町が奏でてる音みたいに思えて
逃げたくても逃げられへんような
寂しい気持ちになるねん