| higuchi emiko xxxxxxx |
風つよく吹く
あかるい朝にめざめる前 えみこ、と呼ぶ声をきいた 低い男の声だった とりとめなく定まらない 近ごろの私のこころに 寂しさに似た静けさがしみて とおい父親のすがたが浮かび それから、 かみさまを思った
かみなんていない。
目に見えないものは信じない。 なにもしてくれないから。 と言う わかい恋人
かみさまはなにもしないんだよ ただ見てるだけ
うそだ。オレだまされてる。
私も だまされているのかもしれないけれど
ありきたりの絶望に沈んでそのまま 戻れないことだってありえたのに もうひとつの空のような桜の花の下 いま 手をつないで歩いている
風がつよく吹いて 目の前 吹き飛んでしまいそうだ
写真を撮りあう人たちの 晴れやかな笑い顔も ひとり川辺でおにぎりを頬張って 足をなげだしている女の子も 場所取り用の青いビニールシートも ぜんぶ
あの時 産んでいれば きみぐらいだった
チューして。
いきていることを確かめるための 刹那的な交わりはもういらない 約束しあう将来をいまは持たない
軽すぎるよ 私は
他人の非を とことん責めることが できるのは 失うもののない私の不毛さだ
きみは 知らせにきたの？ そうして、あのひとは なにを
私は与えることができない ということばかり思うよ
もっと名前で呼んで。
からだをつよく引き寄せられる
お参りなんてしない。
タカアキって名前で呼んで。