| カモメ |
野分 紅
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| この冬の鴎が一昨日渡来したと |
| ラジオから聞こえてくる |
| 座席のビロードに指を立てる なにか |
| 似たような感触 |
| 寒いですね |
| 寒くなりましたね |
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| 木の先端のゆらめきも |
| 遠くから眺めているかぎりは |
| 静かだ |
| 世界は |
| 逃げるひとたちと |
| 探すひとたちとにわけられる |
| 今夜からまた |
| 雨になるようですよ |
| 間にあいますか |
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| 光を閉じ込めて行き場のない |
| オレンジジュースの底の澱が |
| ちいさな唇に吸い込まれていった |
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| 今度とおくへいくときには |
| そこで待つひとたちに |
| 青い缶の紅茶葉を持っていきます |
| 小さな 東京タワーの置物と |
| パステル調のビーズは |
| ちいさなひとたちに |
| 寒い そこでは |
| もうなにも喋らなくていい |
| ちょうど今頃は頻繁にしぐれて |
| 雨上がりの薄い明るみに虹がみえるのだそうです |
| 進行方向と逆向きの座席に座ると |
| あの子が好きだった柿の葉寿司を広げて |
| わたしは泣くでしょう |
| みんなかわっていくけれども |
| 食べ物の好みなんかは案外 |
| かわらないんだって |
| 向かいの弟が教えてくれた |
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| 景色が |
| 引きはがされるように |
| 同じ速度で遠のいていく |
| 遠くの木の先端が |
| 静かにゆらめいている |
| 一雨ごとに木が |
| 色づいていくのにもなにか |
| 意味があるのですか |
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| 淡い匂いを放つ雨上がりの苦しみを |
| あなたは楽しみにしていた |
| 消しても 消しても |
| 雨粒が広がる車窓に |
| 意味を持つ景色や文字を繰り返すよう |
| 神様はしくんだのだ |
| 水音の広がるちいさなく区域にまで |
| それは侵食して外はまるで |
| ざわめきのようになっているのに |
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| まだ知りたがる |
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| オレンジ色に透ける |
| ちいさな手と唇と |
| 木の先端が |
| 遠くで ゆらめいている |
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| 今度とおくへいくときには |
| そこで待つひとたちは |
| もうなにも言わないでしょう |
| 山吹色の風の渦はいつでも |
| 音もしないで空へ向かっている |
| お財布の中にはいくつかのレシートに挟まって |
| １万円札が入っているので |
| ちいさなひとたちはきっと |
| 喜びます |
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