いいこに、
樋口えみこ


わかってしまったような
顔をして
こどもじみている
私の世代さん

ちいさな頃から
ナンダカわかってしまってた
二十一世紀の未来都市を画用紙に描かせられて
そんな時まで生きてないかもと楽観する
「将来の夢は社長秘書」
「子どもは三人」
ミヤコちゃんのくちびるにくちづけた
一九七四年春

ミヤコちゃんは主婦になり
万引きがやめられない

「今度つかまったら留置所なの」

高度経済成長の波に
突き動かされた親の世代
公害病も第三次世界大戦もなんのその
あたしんちに電話がひかれた
テレビがカラーになった
応接三点セットが入った
子どもたちを叱り飛ばしながら
その人たちの顔はたしかに前を向いていた

私たちは、

リボンの騎士・・・

私たち、なんていう
連帯感は持ちあわせていないケド
私たちは、おとなしく
テレビをあたえられ
団塊の世代がにぎやかに踏みつけていった
灰色の草地にしゃがんでクローバーを編んだ

しずかだった
嵐はぜんぶ草地の外がわで起こっていた
髪かざりを作るのは
ミヤコちゃんが上手
ミヤコちゃんの家の四畳半の応接間には
女の人の裸のパネルが飾ってあった

パネルの前で記念写真を撮ったね
フカフカの黒い革のソファに座って
十一歳だったカーテンをひいて
おとなの本を読んでひっそりと

今もひっそりとディスプレイを覗いたり
書棚の本を並べ替えたりしている
夫、ボク、
行っておいでと送られて逢瀬に向かう
お母さん、アタシ、
通販で買った瀟洒な下着をつけて

しかられたくないの

だからいいこにしている

せきにんをとるひつようがあります

だからいいこにしている

ミヤコちゃんは子どもに保険金をかけている

だからいいこに、

どんな祭りも番組も疼きをおさえてはくれない
いつまでも待っているの
足の届かない海で波を掻いて
おとうさん、

もうじき親はしんでいきます

だからいいこにしているよ